著者
石関 昇
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.31, 1961 (Released:2014-08-29)

脂漏性皮膚炎の原因は皮脂の分泌異常によると考えられているとはいえ,その本態はなお未知に属する.動物実驗的には,ビタミンB6欠乏食によつて惹起される大黒鼠の皮膚変化が人の脂漏性皮膚炎に類似し,且つこの際尿中にXanthurenic acidの排泄されることが証明されている.以上の事実よりその治療にビタミンB6の應用は当然考えられ,1943年Wrightらの報告以来,吾國においても諸家によりその有効なることが強調された.さらにこれ等の報告を裏書するごとき実驗としては,1951年GlazerらはPyridoxine拮抗体Desoxypyridoxineを人体に投與してビタミンB6欠乏症を惹起せしめ,皮膚には脂漏性皮膚炎類似の症状を顯現した.この際にも,動物実驗に於けるがごとく,尿中よりTryptophanの異常代謝物Xanthurenic acidを檢出し,しかもこれらの欠乏症状はPyridoxineの投與により容易に消褪した.しかるに人の自然の脂漏性皮膚炎とビタミンB6代謝の関係,特にその欠乏の有無は,ビタミンB6測定の良法がないために,臨床的経驗より漠然と使用しているといつても過言ではない.