著者
荒川 史博 小園 正樹 石黒 智子 山口 耕作 井原 安洋 大石 泰之 森松 文毅
出版者
日本食品化学学会
雑誌
日本食品化学学会誌 (ISSN:13412094)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-7, 2014

トランス脂肪酸は、分子内にトランス型の二重結合を持つ不飽和脂肪酸の総称であり、天然では反芻動物のルーメンにて生成し、乳や肉中に移行・蓄積することが知られている。欧米での大規模な疫学的調査から、トランス脂肪酸の過剰摂取は冠動脈性心疾患のリスクを高めることが示唆されている。本研究では、国内に流通する畜肉のトランス脂肪酸含量の網羅的調査を行い、畜肉に含まれるトランス脂肪酸の実態把握を行った。その結果、通常喫食する脂肪を含んだ牛肉のトランス脂肪酸含量は、0.33〜1.87g/100gであることが明らかになった。また、牛脂では1.43〜9.83g/100gであることが明らかになった。内臓では牛の第一胃(ルーメン)において1.70g/100gと一番高い値を示した。牛肉の調査の結果、同一の部位においても、生産国が異なることによりトランス脂肪酸含量に差があり、飼料の種類および給餌期間によって蓄積する量に違いが生じることが推察された。一方、豚肉および鶏肉の調査結果から、トランス脂肪酸量が0.3g/100gを大きく超える部位は無かった。今回の調査から、以前の報告通り反芻動物の食肉中からトランス脂肪酸が検出された。しかし、最も多くトランス脂肪酸が存在した穀類を200日以上給餌した米国産のバラ肉で1.87g/100gであり、畜産物の摂取に起因する健康へのリスクは低いと考えられた。