- 著者
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燕 軍
相澤 幸夫
磯貝 純夫
人見 次郎
- 出版者
- 岩手医科大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2005
僧帽筋の二重神経支配について数多くの研究がなされたが、主に支配神経のニューロンの局在分布に注目し、これらの運動ニューロンの軸索が副神経と頚神経前枝の2つルートを通って筋に入ることが明らかになった。しかし、二つルートを経由するニューロン局在の違いの有無、頚神経経由する線維に運動成分について、もっと具体的に論じていない。我々は、実験動物(ラット)を利用し蛍光色素DiIと組織化学染色法で頚神経前枝と副神経との交通枝を経由して僧帽筋に分布する神経線維の筋内分布領域も同定し、さらに、ニューロンの逆行性標識に信頼性の高い蛍光色素DiIとDiOを用いて、副神経の運動ニューロンの分布を調べ、3D再構築法を加えて立体的にこのニューロングループの脊髄前角内の局在を観察した。結果、僧帽筋を支配する線維の運動ニューロンは、副神経根を経由するものと頚神経前根を経由する二種類のニューロンが脊髄前角の同じ領域に存在しているけれども、主には背側に向かって走行し脊髄の背外側から出る軸索と、腹側に向かい脊髄を出るものがあることを初めて明らかにした。さらに、同じ領域に局在している、副神経根を経由する線維は主にαニューロンで、頚神経前根を経由する線維は主にγニューロンであることも明らかにした。一方、頚神経由来する線維の末梢の筋内分布を調べた結果、筋紡錘に分布する線維が多数認められ、また運動終板に分布する少数の線維も認められ、γ運動線維とα運動線維と判断できた。これらの実験により、僧帽筋を支配する運動ニューロンの脊髄前角における局在領域とニューロンの種類は、筋内の分布様式と一致し、僧帽筋の二重神経支配の仕組みが明らかとなった。しかも、本研究の結果によって、臨床に副神経切断されたにもかかわらず、僧帽筋の「弱い」随意運動が依然観察される結果に対しても説明できる。一方、副神経核のニューロンは同じ領域に局在しているにもかかわらず、軸索の伸長が背腹両方向であることについて、ラット胚を用いて解析も進めている。