著者
川口 ちひろ 礒島 康史 馬場 明道
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.3, pp.193-199, 2007 (Released:2007-09-14)
参考文献数
26
被引用文献数
1

睡眠/覚醒,体温,内分泌など種々の生命活動で見られる約24時間周期のリズム,すなわち概日リズムは,生物が地球の自転に伴う明暗(昼夜)の周期的変化に適応するために獲得した生理機能である.哺乳類の場合,脳視床下部視交叉上核が体内時計中枢として概日リズムを形成・統合する他,光・温度・社会的要因などの外部環境同調因子を利用して,24時間周期から若干ずれた概日リズムの位相を外界の24時間周期の明暗位相に同調させる“位相変化機構”も担う.ゲノミクス的手法の発達と相まって時計本体の分子機構はこの10年の間に全貌がほぼ明らかにされた一方で,位相変化機構をはじめとする個体レベルでの概日リズムの調節機構は,その評価方法が特殊かつ複雑である上,調節に関与する候補分子の同定が不十分なため,時計本体ほどは解明されていない.本稿ではまず,動物個体の概日リズムを解析するにあたり必要な装置および周辺機器について例示した.次に概日リズムの基本特性である周期性および周期長の測定方法について説明し,これらのパラメーターに異常が見られる動物,特に時計遺伝子の改変動物を実例として挙げた.概日リズムの位相変化機構では,最も強力な外部環境同調因子である光による位相変化機構の特性について述べ,その測定方法に関しては著者らが行った,光情報伝達の調節に関与すると示唆されているpituitary adenylate cyclase-activating polypeptide遺伝子の欠損マウスの解析結果を交えて解説した.また現代社会特有の位相変化機構と言える時差ぼけ(jet lag)の評価方法についても説明を加えた.このような個体レベルでの概日リズム解析が今後進展することは,概日リズム障害や睡眠異常などの種々の疾患における,より有効な治療法確立に貢献すると期待される.