著者
川鍋 祐夫 押田 敏雄 祝 廷成 白 暁坤 〓 玉龍
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.93-100, 1993-06-25
被引用文献数
4

中国東北部などに分布する羊草草地は,かつて家畜に良質の飼草を供給したが,不合理な利用のためアルカリ化による退化が著しいといわれる。その実態を把握し,退化とアルカリ化の関係を明らかにするため,黒龍江省の安達および大慶において植生と土壌の調査を行った。採草地は退化が明瞭でなかったが,放牧地は退化しており,裸地の割合は退化が軽い場合では27-33%,酷い場合では47-78%であった。退化した草地の草種組成は,羊草などアルカリ耐性の弱い種が減り,Chloris virgataなどの一年生や,Polygonum sibiricumなど強アルカリ耐性の種が侵入していた。裸地は植被地より低い所にでき,土壌のpH,電気伝導度,硬度が高く,塩類集積によるアルカリ化や物理性の悪化がもっとも進んでいた。裸地の周辺に同心円状または帯状に異なる植生が配列するのが観察され,微地形が関係した土壌アルカリの微妙な傾度が,種のアルカリ耐性の強弱と対応して植生型の分布に影響していると考えられた。これらの結果から,植生の荒廃と土壌の物理・化学性の悪化が相伴って草地生態系の退化を引き起こしていると考えられた。
著者
川鍋 祐夫 祝 廷成
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.91-99, 1991-04-30
被引用文献数
13

乾燥地に生成する草原は不適当な利用により砂漠化を招きやすいが,中国では草地など土地の不毛化を三化(退化,塩化,砂漠化)として警戒し,その対策を立てていて,生態学的な調査研究が多く行われている。中国東北部から内蒙古の半乾燥地帯に広く分布する羊草(シバムギモドキ,Aneurolepidium chinense)草原は良質の飼料を家畜に供給し,流通にも供する重要な草資源であるが,最近生産力の著しい低下が憂えられている。このため草地の永続的な利用を可能にする,保全を考慮した適正な利用方法,利用強度を探る第一歩として本研究を行なった。調査地は長春の北西約150kmにある吉林省,長れい種馬場の羊草草地で,やや湿潤な低平地に土壌的極相として成立し,排水良好な固定砂丘上には楡の林が成立している。多年にわたり無管理のまま採草,放牧が繰り返されてきて,過去40年間に生産力が半減したといわれている。この2,000haの草地のうちに,過去5年間利用を禁止した保護区,年1回刈取りする刈取り区,放牧地のうち羊草があり植生被度の高い放牧A区,羊草がなく裸地の多い放牧B区とを設けて,1985年,ライン法により植生を調査した。その結果,刈取り区は羊草が優占し,著しい植生の退化を起こしていないが,放牧区では撹乱が著しく,優良野草の羊草が減少し,耐アルカリ性の草や1年生の草が侵入していた。特に,放牧B区では羊草が消失して,草丈数cmのSuaeda glaucaが優占し,牧養力を殆ど失っていた。羊草の草勢が減退して消失し,アルカリ性土壌に適応するSuaeda glaucaにおきかわったのは,過放牧による土壌の劣化が関係しているとみられた。退化草地の復元と生産力の向上のため,耕起,粗耕,施肥,播種,潅漑等土壌改善を含む更新法が多く試験され,ある程度の効果を収めているが,牧養力に見合った放牧強度に調整すること,採草地と放牧地との輪換等,放牧システムの改善が基本になると考えられた。