著者
大久保 忠旦 川鍋 祐夫 星野 正生
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.136-145, 1975-07-25

第2報で,季節別の最大乾物生産速度(_<max>CGR)と群落葉身の平均クロロフィル含量(ChA)との間に,高い相関関係が見出された。その理由を,群落葉身の平均的な葉令と受光歴に求めたが,さらに実験的に検証する目的で,ここでは,アルファルファを4月〜7月にわたり栽植密度4段階で栽培,生長解析と弱光下光合成の測定によって_<max>CGRとChAの関係をみた。1.各密度レベルに応じて得られた_<max>CGRの変動は,最適LAI(_<opt>L)より最適グロロフィル指数(_<opt>CI)に強く依存していた(図2)。2._<max>CGRの変動は,同時に日射量やC/F比の影響も受けていたが,比例的関係の明瞭なのはChAに対してであった。それゆえ_<max>CGRと_<opt>CIの比例関係は,_<max>CGRとChAの比例関係によるところが大きい(図3)。3.群落のChAは生育につれて高まり,_<opt>Lの時期に最高となり,さらに生育が進むと中・下層葉の低下のため全体のChAが低下する,という傾向がみられた。_<opt>Lの時期であっても,葉層別にみたChAは4.0〜5.0mg/dm^2で,多くは4.0mg以下である。4.弱光下の光合成速度は,展開後の葉令15〜20日前後で最高となったが,ChAとほぼ比例的な推移を示した。光-光合成曲線の立ち上り(最大光利用効率,(φ_0)は,個葉のChA 0〜5mg/dm^2の範囲では比例的に増加したが,5mgを越えたところでは変動が大きかった(図5,6)。5.第2報と本報で明らかになった_<max>CGRの変動のChAへの依存性は,群落の平均葉令,受光歴などに基づく葉身の光合成能力の変動が,ChAの変動と比例しているためとみられるが,クロロフィルの弱光要因としての役割も,部分的に含まれていると考えられる。以上の結果から,群落が_<opt>Lや群落吸光係数の近似的な範囲にあってもなお観察される_<max>CGRの変動は,外的要因としての日射量のほか,内的要因としてはChAに依存した形で把握できることが明らかとなった。これは,乾物生産力指標として,LAIよりもCIを用いるほうが有利な場合があることを示唆している。
著者
酒井 博 川鍋 祐夫 藤原 勝見
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.198-205, 1969-11-29
被引用文献数
1

オーチャードグラスの播種翌年および翌々年の草地につき,窒素量25g,12.5g(m^2当り),刈取り高さ5cm,15cmの処理区を設け,葉身,葉鞘・茎,根,枯死部の重量,葉面積を測定し,生長解析を行なった。本報では肥料および刈取り処理の平均値により,春,夏,秋および早春の生産量と生産過程を比較した。1.年間の乾物収量はm^2当り720gで,多くの粗放管理の永年草地の収量水準であった。1日当り乾物収量は4〜5月がもっとも高く,9〜11月がもっとも低く,春高秋低型である。これに対し,純日生産量は夏に中だるみする型である。収量率は春は40〜50%,夏は71%,秋は21%で,この季節変動が収量の季節的偏りに影響を及ぼしている。夏の低収は乾物生産の低下に,秋の低収は収量率の低下に原因が求められる。2.夏は根重の低下が激しく,回復が遅い。秋は春,夏に比べ,葉身重に対する根重または葉鞘・茎重が多い。早春は高い生産力の期間が長いことが特徴で,根,葉身,葉鞘・茎の重量すべてが増加した。刈取り後の生育過程は,葉鞘・茎重,根重の減少が起る時期,それらの漸増が起る時期および根重の速やかな増加が起る時期の三つに大別された。早春は茎の割合が,秋は根の割合が多いため,ともにC/F比が大きい。反対に春,夏はC/F比が小さい。3.葉面積示数は春,夏,秋とも刈取り後約30日で5.5〜6.0に達した。しかし高温乾燥であった1967年の夏は約3にしかすぎなかった。葉積は純生産量と相関が高いが,夏は葉積の割に純生産量が低い。4.純同化率は春が高く,夏は低く,秋はその中間であった。夏に低い理由の一つは高温による呼吸の亢進にあると考えられた。収量生長速度は純同化率と同傾向であった。
著者
川鍋 祐夫
出版者
Japanese Society for Tropical Agriculture
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.45-53, 1980-06-01 (Released:2010-03-19)
参考文献数
22

18種の重要雛作物を含む, 128種の繊維作物について, 所属する属科, 目を調べ特定の分類群から多くが出ているか, 出ているとすればそれはどんな群か, を検討した.アオイ目, イラクサ目, ユリ目のように繊維作物にかかわる科, 属が多いものと, フトモモ目, パイナップル目のよう1こその少ないものがある.繊維作物が多く出ているアオイ科, シナノキ科, クワ科, イラクサ科, リュウゼツラン科などは, 茎の靱皮雛や葉の維管束繊維の発達が著しい, とされている群である.経済的に重要な栽培作物は一年生が多く, 半野生ないし野生の低木, 中高木からは自給用又は市場性の狭い繊維が生産されている.温帯性の繊維作物はアマ, アサ, ニュージーランドアサの三種で, それ以外の多くのものは熱帯性である.
著者
川鍋 祐夫 押田 敏雄 祝 廷成 白 暁坤 〓 玉龍
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.93-100, 1993-06-25
被引用文献数
4

中国東北部などに分布する羊草草地は,かつて家畜に良質の飼草を供給したが,不合理な利用のためアルカリ化による退化が著しいといわれる。その実態を把握し,退化とアルカリ化の関係を明らかにするため,黒龍江省の安達および大慶において植生と土壌の調査を行った。採草地は退化が明瞭でなかったが,放牧地は退化しており,裸地の割合は退化が軽い場合では27-33%,酷い場合では47-78%であった。退化した草地の草種組成は,羊草などアルカリ耐性の弱い種が減り,Chloris virgataなどの一年生や,Polygonum sibiricumなど強アルカリ耐性の種が侵入していた。裸地は植被地より低い所にでき,土壌のpH,電気伝導度,硬度が高く,塩類集積によるアルカリ化や物理性の悪化がもっとも進んでいた。裸地の周辺に同心円状または帯状に異なる植生が配列するのが観察され,微地形が関係した土壌アルカリの微妙な傾度が,種のアルカリ耐性の強弱と対応して植生型の分布に影響していると考えられた。これらの結果から,植生の荒廃と土壌の物理・化学性の悪化が相伴って草地生態系の退化を引き起こしていると考えられた。
著者
川鍋 祐夫 Neal-Smith Cedric A.
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.216-221, 1979-10-31
被引用文献数
2

東アフリカの1,170mから2,270mまで異なる標高の地域に起源をもつローズグラスの四品種と,南アフリカに原産した市販種とを,15/10から36/31℃まで五段階の昼/夜温で三週間処理して生育量を調査し,RGR,NAR,LWRを求め,品種間比較を行った。各品種はほぼ同じような温度生育関係を示し次のように結論された。生育の最低温度は15/10℃とみられ,これより27/22℃ぐらいまで温度が高まれば高まるほど旺盛な生育をする。生育適温は27/22℃またはこれより高い所にあり,36/31℃では乾物生産量は最大であったが,ほふく茎の発生などには高過ぎる温度である。高標高地起源のNzoiaおよびMassaba,ならびにPioneerは,低標高地起源のSerereおよびMpwapwaより15/10℃の低温における生育が優れ,NAR,出葉数などが大であり低温適応性を有するものと認められた。この結果から原産地の気象条件と品種の温度反応との間には,密接な関係があると指摘された。
著者
川鍋 祐夫 祝 廷成
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.91-99, 1991-04-30
被引用文献数
13

乾燥地に生成する草原は不適当な利用により砂漠化を招きやすいが,中国では草地など土地の不毛化を三化(退化,塩化,砂漠化)として警戒し,その対策を立てていて,生態学的な調査研究が多く行われている。中国東北部から内蒙古の半乾燥地帯に広く分布する羊草(シバムギモドキ,Aneurolepidium chinense)草原は良質の飼料を家畜に供給し,流通にも供する重要な草資源であるが,最近生産力の著しい低下が憂えられている。このため草地の永続的な利用を可能にする,保全を考慮した適正な利用方法,利用強度を探る第一歩として本研究を行なった。調査地は長春の北西約150kmにある吉林省,長れい種馬場の羊草草地で,やや湿潤な低平地に土壌的極相として成立し,排水良好な固定砂丘上には楡の林が成立している。多年にわたり無管理のまま採草,放牧が繰り返されてきて,過去40年間に生産力が半減したといわれている。この2,000haの草地のうちに,過去5年間利用を禁止した保護区,年1回刈取りする刈取り区,放牧地のうち羊草があり植生被度の高い放牧A区,羊草がなく裸地の多い放牧B区とを設けて,1985年,ライン法により植生を調査した。その結果,刈取り区は羊草が優占し,著しい植生の退化を起こしていないが,放牧区では撹乱が著しく,優良野草の羊草が減少し,耐アルカリ性の草や1年生の草が侵入していた。特に,放牧B区では羊草が消失して,草丈数cmのSuaeda glaucaが優占し,牧養力を殆ど失っていた。羊草の草勢が減退して消失し,アルカリ性土壌に適応するSuaeda glaucaにおきかわったのは,過放牧による土壌の劣化が関係しているとみられた。退化草地の復元と生産力の向上のため,耕起,粗耕,施肥,播種,潅漑等土壌改善を含む更新法が多く試験され,ある程度の効果を収めているが,牧養力に見合った放牧強度に調整すること,採草地と放牧地との輪換等,放牧システムの改善が基本になると考えられた。