著者
野村 秀明 Hideaki NOMURA 神戸常盤大学教育イノベーション機構(保健科学部医療検査学科)
雑誌
神戸常盤大学紀要 = Bulletin of Kobe Tokiwa University (ISSN:21884781)
巻号頁・発行日
no.9, pp.1-12, 2016-03-31

ヒトは決して単一な生命体ではなく、無数の細菌群と共存しており、それらは特徴ある常在菌叢を形成している。特に消化管内には、100兆個の細菌が常在し、重量は約1.5kg、細菌の総DNA量は宿主の100倍にも上る。これらの消化管内の細菌は他の微生物と共に腸内フローラを形成し、宿主と静的な平衡状態を保っていると考えられてきた。しかし近年、腸内細菌のDNA解析が進み、その再評価が行われるにつれ、宿主との関連性において、むしろ動的ともいえる作用を有し、腸内細菌に起因すると考えられる疾患は、消化器疾患にとどまらず、代謝疾患、免疫疾患、悪性疾患、さらには精神疾患にまで及ぶ証拠が次々と明らかにされつつある。腸内細菌は宿主の腸管内に共存し、ほとんど宿主の身体的、さらには精神的状態までにも影響を及ぼしている。本稿では、最近の腸内細菌研究を疾患との関連性について概説し、新しい治療応用(プロバイオテックスや糞便移植法)についても紹介する。