著者
野村 秀明 Hideaki NOMURA 神戸常盤大学教育イノベーション機構(保健科学部医療検査学科)
雑誌
神戸常盤大学紀要 = Bulletin of Kobe Tokiwa University (ISSN:21884781)
巻号頁・発行日
no.9, pp.1-12, 2016-03-31

ヒトは決して単一な生命体ではなく、無数の細菌群と共存しており、それらは特徴ある常在菌叢を形成している。特に消化管内には、100兆個の細菌が常在し、重量は約1.5kg、細菌の総DNA量は宿主の100倍にも上る。これらの消化管内の細菌は他の微生物と共に腸内フローラを形成し、宿主と静的な平衡状態を保っていると考えられてきた。しかし近年、腸内細菌のDNA解析が進み、その再評価が行われるにつれ、宿主との関連性において、むしろ動的ともいえる作用を有し、腸内細菌に起因すると考えられる疾患は、消化器疾患にとどまらず、代謝疾患、免疫疾患、悪性疾患、さらには精神疾患にまで及ぶ証拠が次々と明らかにされつつある。腸内細菌は宿主の腸管内に共存し、ほとんど宿主の身体的、さらには精神的状態までにも影響を及ぼしている。本稿では、最近の腸内細菌研究を疾患との関連性について概説し、新しい治療応用(プロバイオテックスや糞便移植法)についても紹介する。
著者
野村 秀明 小峰 春香 澁谷 雪子 瀬藤 晃一 宇佐美 真
出版者
神戸常盤大学
雑誌
神戸常盤大学紀要 = Bulletin of Kobe Tokiwa University (ISSN:18845487)
巻号頁・発行日
no.9, pp.93-101, 2016

近年の社会の高齢化に伴い、寝たきり患者数は200万人を超え、その10%以上に褥瘡の発生を見る。褥瘡の発生・増悪は直達力の他に、二次的なリスク因子が存在し、加齢に加え、栄養障害が強く相関している。この論文は、高齢者褥瘡患者についての臨床症例を通して、栄養と褥瘡治療の関連性について検討することである。今回、18名の高齢者褥瘡患者を対象に、栄養評価による栄養障害の程度、栄養管理法、および栄養療法を施行した後の褥瘡の治療反応性について検討した。その結果、対象患者は全例中等度〜高度の栄養障害を有し、その半数以上に高度の褥瘡を認めた。チーム医療による栄養管理を行った結果、18例中12例に治療効果を認め、この治療反応性は、経口摂取群、経腸栄養投与群に多く見られた。以上より、褥瘡患者では栄養障害が存在するため、局所の創管理に加えて、チーム医療による全身的な栄養管理をより生理的な栄養投与ルートを介して行うことが必要であると考えられた。
著者
野村 秀明 柳田 潤一郎 上野 理恵 井村 聡子 小野 一男 酒井 ひろ子 木村 憲司 Shiba Kumar RAI Hideaki NOMURA Junichiro YANAGIDA Rie UENO Satoko IMURA Kazuo ONO Hiroko SAKAI Kenji KIMURA Shiba Kumar RAI 神戸常盤大学保健科学部医療検査科(教育イノベーション機構) 神戸常盤大学保健科学部医療検査学科 神戸常盤大学保健科学部看護学科 神戸常盤大学保健科学部医療検査学科(元) 神戸常盤大学保健科学部医療検査学科非常勤 森ノ宮医療大学 神戸大学医学部保健学科 ネパール医科大学 微生物学 /
出版者
神戸常盤大学 ; 2009-
雑誌
神戸常盤大学紀要 = Bulletin of Kobe Tokiwa University (ISSN:21884781)
巻号頁・発行日
no.8, pp.77-84, 2015-03-31

【目的】世界辺境地区の一つであるネパール山間地方の住民の摂取栄養と健康状態について解析した。【方法】神戸常盤大学を中心に共同調査プロジェクト(JICA 草の根事業)を編成し、ネパールデタール村でのフィールドワークを行った。住民208名(年齢5~82歳、男女比82:126)の健康調査を施行し、身体計測とBIA法を用いた体構成成分測定、および血液検査(TP、Albumin、GPT、BUN、Ca)を行った。また住民の内科診療を行い、下痢などの消化管疾患の有無を調査した。さらに、一般家庭における日々の食事内容をデジタルカメラに撮影し、摂取熱量、摂取栄養素を計測すると同時に、村の採水所30ヵ所での飲水を含めた生活用水の細菌学的検査を行った。【結果】身体計測上、BMI<18.5の比率が50%を超え、12歳以下の子供では80%近くに及んだ。体構成成分測定では、特に子供で体内脂肪、筋肉量の減少と、体内水分量の増加が見られた。また一見肥満体系であっても、栄養障害による浮腫や、筋肉量の減少による下腹部の突出(クワシオルコル)を示す症例も、12歳以下の子供で見られた。血液検査は、血清総タンパク、アルブミンの低下以外は、ほぼ正常値内であった。食事は、ネパール特有のダル・バート・タルカリという炭水化物が中心の料理で、摂取栄養素の80%を占めた。1日2食が標準である現地人の平均摂取熱量は800~1000kcal程度と推計された。飲料水の細菌学的検査では、大腸菌、及び大腸菌群が80~100%の頻度で検出された。【結論】未だカースト制度の現存するネパールの山間地方における栄養状態と衛生環境は劣悪であったが、これは過去に先進国が経た道であり、自らの事として手を差しのべる必要があると考えられた。The research team jointed with Kobe Tokiwa University, Kobe University, and Nepal Medical College has been organized to implement the fieldwork at Dithal Village in Nepalese mountainous area for JICA Kusanone Project. In the fieldwork, the nutritional and health state of 208 village inhabitants (5 to 82 years old : 82 of male and 126 of female) were investigated, and their daily dietary foods were analyzed intake of calories and nutrients. The state of hygiene was also studied including of checking the contamination of drinking water microbiologically. The results showed that the high presence of over 50% of thinness, which is defined as less than 18.5 of BMI, was estimated in all age-groups, however among the age group under 12 years, the rate was much higher up to 75~80%. In body component analysis, the decreased fat and muscle volume and increased body water volume were manifested in children. Some of the children showed the distended abdomen, which is the typical sign of Kwashiorkor type malnutrition. The average calorie intake of daily diet was estimated about 800~1000kcal, and the content of it was 80% of carbohydrate, 10% each of fat and protein. The contaminations of Coliform bacilli and E. coli could be detected 80 to 100% of drinking water at 30 water places. The internal medical check revealed the prevalence of water-borne digestive diseases with abdominal pain, vomiting, and diarrhea. The deteriorated nutritional and public health state in Nepalese mountainous area could be disclosed in this study, but these are the similar paths on which the advanced countries have gone through in their past. We are entrusted to give our hands to them.
著者
野村 秀明
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.616, pp.616_5-616_22, 2012-03-31 (Released:2013-08-02)

損害保険会社の海外進出の目的は,1980年代頃迄は,海外進出した日系企業の現地でのリスクを引受けることであった。その後アジア等新興国の経済成長に伴って,ローカル市場も魅力的になってきたことから,1990年代頃から損保各社は,現地企業及び個人のリスク引受も行うようになってきた。更に2000年代以降は,M&Aも活用してより本格的にローカル市場に参入するようになってきている。こうした海外事業展開は,成長市場への布石,収入保険料及び利益への寄与,収益性の向上等を目指したものであり,ポートフォリオ分散による安定化といった効果も現れてきている。一方,現地の規制・文化に合わせた商品開発やマーケティング,リスク管理・ガバナンス態勢の強化,国内外の人材の有効活用といった課題も生じてきている。日本の損保市場拡大が見込みにくい一方,新興国等では市場拡大及び収益性が見込めることから,損保会社は様々な課題に取り組みながら,今後益々活発に海外展開を進めていくのではないかと考えられる。