著者
神田 翔太郎
出版者
国士舘大学21世紀アジア学会
雑誌
21世紀アジア学研究 = Bulletin of Asian Studies (ISSN:21863709)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.97-117, 2022-03-15

イラク中部、ディヤラ川流域のハムリン盆地(現ハムリン湖)では、メソポタミアの長方形のプランをもとにした伝統建築から逸脱した円形建物がジェムデッド・ナスル期のテル・グッバ第Ⅶ層から発見されている。この時代の遺跡は他に確認されていないが、次の初期王朝時代Ⅰ期には、円形遺構、墓域を持つ遺跡が複数確認されるようになる。つまり、遺跡数の増加が指し示すことは、人口の増加がこの地域、この時期にあったということをうかがわせる。これを踏まえて本稿では、各遺跡の位置関係から、遺跡毎で機能(祭祀、行政、墓域)が分化し、それぞれが連帯した形で社会生活が営まれていたということを考察した。さらに、これらの遺跡からは、メソポタミアの土器の中でも特徴ある緋色の顔料を使った「スカーレット・ウェア」が出土している。これを踏まえて、彩文土器の機能論についても言及した。