著者
福井 木綿
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.218-232, 2006 (Released:2022-07-15)
参考文献数
23

ベトナム戦争についての研究は数多く存在するが,未だ解明されていない問題は多い。それらを解明するために,南ベトナム解放民族戦線についての再評価が必要であるとの問題意識に基づき,本稿では,解放戦線の財政資料に基づいて,解放勢力の兵員数の推計を行い,その規模と推移について考察を加えた。推計結果は,戦況の推移,主力部隊の規模と矛盾しないものであったが,既存の主要な参考データである米国の推定よりはるかに大きい値となった。推計結果によって,(1) 解放戦線の規模は現在まで過小評価されており,解放戦線の役割についての再評価が必要であるということ,(2) 解放戦線とハノイ政府の関係性の転換において,テト攻勢とベトナム化政策による打撃が大きな影響力をもったということ,(3) 米国の圧倒的軍事力を背景とするサイゴン政府側が軍事的優勢にたつことができなかった理由は規模の問題にあったということが明らかとなった。