- 著者
-
福原 朗子
- 出版者
- 北海道大学
- 巻号頁・発行日
- 2021-06-30
二酸化炭素などの温室効果気体によって、大気における温室効果が起こる。多くの人が、言葉として知っているものの、高校や大学で習う自然科学的な知見と結びつけて理解する機会は少ない。本研究では、Kaneko et al.(2010)で開発された光音響効果の実験装置をもとに、赤外線が透過する様子を、気体セルにおける入射量・吸収量・透過量に関するエネルギー収支を考察することで理解し、また、その光学的厚さをカバーグラスの枚数相当に換算することにより、高校生や大学生が理解できる教材としてまとめた。既存の温室効果を理解する教材の多くは、赤外線ランプ等の光源は使っているものの、その光源の発する波長帯は近赤外領域であり、地球放射の遠赤外線とは異なること、および、用いている容器の多くは幅広い波長で吸収しているのに対して、近赤外領域の二酸化炭素の吸収帯はごく限られた波長のみであり、温度上昇で検出することは困難である。本研究は、それらとは異なるアプローチである光音響効果を利用した教材に注目した。Kaneko et al.(2010)では、赤外線の温室効果ガスによる吸収量が音響信号に変換されるため、結果的に温室効果ガスの吸収帯のみに注目した計測ができる。また、光源の放射温度を比較的低く抑えることにより、遠赤外領域でも吸収量を計測できる特長を持つ。気体の種類によって音響信号が異なること、気体の濃度が高くなると音響信号が大きくなること、断続光の周波数が高くなると音響信号が小さくなること、などが示されており、Fukuhara et al.(2012)では、気体セルに入射した断続光から音響信号として取り出せるメカニズムについて考察している。本学位論文では、光音響効果を利用した装置で、2つの気体セルを縦列配置し、それぞれの吸収量を用いて、エネルギー収支から入射量や透過量を見積もる教材開発を行った。同一ガスを2つの気体セルに封入すれば、その気体の吸収帯におけるエネルギー収支を考えることができる。光源から遠い気体セル(2段目)にCO2濃度100%を封入し、いわば検出器の役割を持たせ、近い気体セル(1段目)にCO2濃度0%から100%を封入し、吸収量を計測した。経験的補正係数を導入した簡単なエネルギー収支により、入射量や透過量を見積もることができるようになった。また、光学的厚さは気象学における基礎的概念であるが、一般の高校生や大学生にとっては必ずしも知られていないものである。光学的厚さを(顕微鏡で使われる)カバーガラスの枚数に換算するようにした。カバーガラスは、可視光で透明だが、赤外光に対しては半透明であり、波長毎の特性も、高校生や大学生の大気の温室効果の理解に役立たせることができる。なお、FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて、波長ごとの二酸化炭素の吸収帯とカバーガラスの透過率から、カバーガラスの計測された吸収率を確認することができている。本研究では二酸化炭素のみを扱ったが、今後、複数の温室効果ガスも扱うことで、気体特有の吸収帯で異なることなどを使用して、より波長特性を理解する教材開発もできる。