著者
安次富寛貴 村井直人 福地弘文 安里亮 玉城ひかり 照屋渚 稲垣剛史 大嶺快司 与儀哲弘
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【はじめに,目的】当院では回復期病棟入院患者に対し,個別リハの提供や病室での自主練習指導,看護・介護スタッフによる離床・起立・歩行練習を行なっている。しかし,高齢者においては個別リハに依存し,病棟生活ではベッド・椅子上に無活動でいることが多く,個別リハ以外で自発的に自主練習を行う,または活動していることが少ない印象を受けた。浜島ら(2004)は高齢入院者の身体活動量は高齢健常者と比べ約1/4しか活動しておらず,さらに廃用性によるものと考えられる体力低下を認めたと報告されている。また,活動性低下は意欲など精神機能の低下にも繋がるともいわれている。これらを踏まえ当院入院高齢患者においても,身体・精神機能低下が廃用として起こっている可能性があるのではないかと考えた。そこで,ADL能力の向上・活動時間の拡大を図ることを目的に,個別リハ以外に病棟リハ室で行う自主練習の提供を午前・午後各1時間程度PT・OTそれぞれ協力して行った。今回この取り組みを実施することで,各患者に及ぼす効果を検証するためにFIM・実用歩行獲得日数を用いて検討したのでここに報告する。【方法】取り組み開始前平成23年8月から平成24年7月の期間と,開始後平成24年8月から平成25年7月の期間に大腿骨頚部・転子部骨折の診断名にて当院回復期病棟に入院し自立歩行獲得達成まで至った者29名を対象とし,開始前14名(以下設定なし群,男性3名,女性11名,年齢81.0±10.18歳),開始後15名(以下設定あり群,男性3名,女性12名,年齢78.4±7.37歳)の2群にわけた。自主練習はレジスタンストレーニング,DYJOC,有酸素運動,バランス練習,立位での作業・課題といった安全に行える方法で複合的な運動内容に設定した。また自主練習は座位・立位といった抗重力姿勢にて行うプログラムを立案した。さらにPT・OTそれぞれ対象者の問題点に沿ったプログラムを立案し,その後の再評価・再立案も徹底した。運動強度は自覚的運動強度を用い,榎本ら(2006)の先行研究を元に10~13(楽~ややきつい)の範囲で低強度に設定し,休息も含め本人のペースで行って頂いた。回数・負荷量なども運動強度の範囲内で徐々に上げ,効果判定としても用いた。対象の2群間における1日当たりの単位数,入院時FIM・FIM効率(合計・運動・認知・歩行・社会的交流)について群間比較を行った。また実用歩行獲得日数については,病棟生活の移動が車椅子から歩行へ変更となった日「監視歩行獲得日数」と,退院時の移動手段で自立となった日「自立歩行獲得日数」をそれぞれ入院時からの日数で算出し,群間比較を行った。各項目における群間比較には,対応のないt検定を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は主研究者が所属する施設の倫理委員会にて承認を得たものであり,ヘルシンキ宣言に沿った研究である。また患者家族に対し十分な説明を行い,同意を得た。【結果】1日当たりの単位数,入院時FIM共に両群間に有意差を認めなかった。FIM効率(合計・運動・認知・歩行・社会的交流)において,「設定あり群」は「設定なし群」と比べ有意に高値であった(p<0.05)。実用歩行獲得日数については,自立歩行獲得日数には有意差を認めなかったが,監視歩行獲得日数において「設定あり群」は「設定なし群」と比べ平均10日短縮しており有意に高値であった(p<0.05)。【考察】個別リハに加え自主練習の提供も積極的に行うことで,ADL能力の効率向上がより得られ,病棟生活において車椅子から歩行への移動手段獲得が早期にできる可能性が示唆された。今回低負荷で設定した自主練習により運動・活動量を増大させたことが,生活上での活動性低下に伴う廃用性要素の改善や受傷部位の機能回復の一助として効果があったのではないかと考える。また,個別リハとは違い,患者自身が運動・作業を主体的に行い,回数や負荷量・課題難易度などを変更していく中で効果判定としても伝えていったことがリハ・活動意欲の向上や自主練習の継続・個別リハの充実化を可能にした印象がある。さらに病棟リハ室に患者が集まり,活気のある空間で自発的に行える環境が作れたこと,患者どうしの交流が取り易い環境が作れたことが相乗効果を高め,今回の結果に影響を及ぼした可能性があると考える。今回身体機能・心理面の評価指標を用いた具体的な検証ができていないため,今後の課題としたい。【理学療法学研究としての意義】個別リハに加え自主練習の提供もPT・OTにて積極的に行うことで,ADL能力の効率向上や車椅子から歩行への移動手段獲得が早期にできる可能性が示唆されたという点において意義があると考える。