著者
伊藤 文夫 丸茂 隆三 福岡 一平 田村 正之
出版者
日本海水学会
雑誌
日本海水学会誌 (ISSN:03694550)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.169-185, 1984 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14

今回の調査結果を要約すると以下のとおりである.(1) 海象ナウル近海は, 鉛直的に三つの水塊から形成されている. T-Sダイアグラムの解析から, 100m以浅の赤道表層水 (高温低塩分, 28.7℃, 34.1~34.6‰), 200mを中心とする熱帯高塩分水 (高塩分, 21.8~11.6℃, 35.3‰), 500m以深に太平洋赤道中層水 (低温低塩分, 10℃以下, 35‰以下) が存在することが認められた.(2) 水質ナウル近海では, 赤道表層水 (0~100m) のリン, ケイ素および窒素の各栄養塩は, 植物プランクトンの増殖によって消費され非常に少ない. これに対し, 栄養塩は100mから下層に向かってしだいに増加している. この鉛直分布型は一般庭熱帯海域にみられるものである. 一方, 生物生産と関連する化学的酸素要求量, 濁度, クロロフィル-αおよび植物プランクトンの細胞数はいずれも100m層で極大を現わし, この層で植物現存量が最も大きいことを示していた.(3) プランクトンOTECプランクトン沖合では, 植物プランクトンは多様な種から構成されており, 特定な種が卓越することはなかった. 植物プランクトンの珪藻, 鞭毛藻とモナド, 円石藻では鉛直分布の極大は50~100m層にあり, これは亜表層クロロフィル極大とよく対応していた. 細胞数からみると, ナウル近海は植物プランクトン生産がかなり高いといえる.動物プランクトンは原生動物 (繊毛虫, 放散虫, 有孔虫), 橈脚類, 翼足類および尾虫類などから構成され, これらは200m以浅におもに分布し, 以深ではきわめて少なかった.(4) 付着生物全調査地点から採集された25種の生物のうち, ほとんどが第二次付着生物 (タマキビ類, レイシガイ類, ヒノデカラマツなどの匍匐性動物) であり, 人工構築物に対する汚損において重要な位置を占める第一次付着生物 (藻類, フジツボ, ムカデガイ類などの固着性動物) がきわめて少なかった. とくに, 配管内面についてはシライトゴカイとイソギンチャク類以外に付着生物は認められず, これら2種もプラント機能停止後に着生したものと考えられた.(5) 潮間帯生物採集生物はサンゴ類数種, 甲殻類 (カニ, ヤドカリ類) 23種, 軟体動物 (巻貝, 二枚貝類) 66種, 棘皮動物 (ウニ, ナマコ類) 10種を含む動物群が約100種, 海藻類は6種であった.