著者
福嶋 紀子
出版者
学校法人松商学園松本大学
雑誌
松本大学研究紀要 = The Journal of Matsumoto University (ISSN:13480618)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.11-22, 2022-03-10

長野県内の圃場では、1970年代から栽培稲品種とは異なる赤米系のイネが自生し、収穫米に混入する事例が問題視されていた。善光寺平周辺で「トウコン」と呼ばれているこの雑草イネの発生理由や、品種の起源は明確ではない。明治以前の稲作では、食味に優れた品種の栽培が領主からは奨励される一方で、生活を支える食糧米としては、天候不順や水不足にも強い強靭な多収穫米の栽培が求められる側面もある。近代以前の稲作の二重構造を、現代の圃場に発生する「雑草イネ」問題の遠因として分析した。また、現在の「トウコン」の呼称は、明治期の農業政策により塗り替えられたものと考え、近世までの稲品種の分布に再検討が必要な点を指摘した。