著者
岩淵 邦芳 福徳 雅章
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

p53は発癌の抑制に関与する転写因子であり、p53の遺伝子の異常が各種のヒト癌の発症に関係することが明らかになってきている。我々はyeast two hybrid systemを用いて、p53のDNA結合ドメインを介して野性型p53とのみ結合する2種の細胞性蛋白質53BP1,53BP2を見い出し報告してきた。本研究機間に53BP1,53BP2の機能に関して以下のような結果を得た。1.1972残基から成る53BP1の全アミノ酸配列を明らかにした。p53との結合領域であるC末270残基は、酵母蛋白質RAD9および乳癌抑制遺伝子産物BRCA1のC末に見られるBRCTdomainと呼ばれるモチーフと相同性を示した。2.53BP1、53BP2のゲノム遺伝子はそれぞれ染色体上の15q15-21、1q41-42に位置した。3.動物細胞内で53BP1、53BP2の^cDNAからそれぞれ22kD以上、150kDの大きさの蛋白質が産生された。抗53BP1抗血清によるウェスタンブロッテイング法で、肺癌細胞株H358細胞に^cDNAからのものと同じサイズの内因性53BP1を検出した。4.53BP1は1)細胞質と核内 2)核内に均一 3)核内にドット状と3つの局在パターンを示したが、53BP2は常に細胞質に局在した。5.53BP1、53BP2はp53の転写活性化因子としての機能を増強させた。BRCTdomainは細胞周期のチェックポイントに関与する蛋白質に広く見い出されており、又、両蛋白がp53による転写を活性化する事から、両蛋白はp53のシグナル伝達経路のなかでp53の上流に位置する可能性がある。今後、両蛋白によるp53活性化の機序を検討する予定である。