著者
秋 利彦
出版者
山口大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

心筋虚血による細胞傷害・細胞死のメカニズムの解明を目的として、特に解糖系(グルコース代謝)の細胞死への関与を中心に研究を行った。ラット心筋由来細胞株H9c2細胞を用い虚血のモデルとして低酸素ストレスを細胞に負荷したところグルコース存在下の低酸素においては、代謝性アシドーシスに起因するネクローシスが起こり、またグルコース代謝を促進する作用を持つphosphatidylinositol 3-kinase(PI 3-kinase)がネクローシスを促進することを見いだした。この研究は強力な生存促進因子と言われているPI 3-kinaseが条件によっては細胞死を促進することもあるということを初めて示したものである。又、アシドーシスがNa^+/H^+交換体,Na^+/Ca^<2+>交換体を通じたCa^<2+>流入を介してCa^<2+>依存性プロテアーゼであるカルパイン活性化を引き起こし、細胞膜の障害を起こすことも明らかにした。アシドーシス及びCa^<2+>流入はまた、H^+ATPase、Ca^<2+>ATPaseによるATP消費を促しATP depletionによるネクローシスを助長していることもわかった。更に、グルコース非存在下の低酸素ではアポトーシスになることがわかった。次に解糖系酵素グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の低酸素ストレスにおける動態を調べたところ発現が上昇していることがわかった。グルコース存在下の低酸素による細胞死におけるGAPDHの発現亢進は、従来いわれていたGAPDHのアポトーシス促進因子としての役割を反映しているというより、低酸素下の解糖系の亢進を反映しているものであると思われる。