著者
秋吉 大輔
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.55-70, 2020-05-15 (Released:2021-05-15)

六〇年代後半から寺山修司は月刊受験雑誌『高3コース』『高1コース』の文芸欄の選者を務める。文芸欄での活動は、寺山の創作源の一つでもあった。実際、文芸欄での経験をもとに詩論『戦後詩』(一九六五)が書かれ、文芸欄の投稿者たちによって天井桟敷公演『書を捨てよ町へ出よう』(一九六八)が生まれていく。本稿では、寺山の詩論=制作論を参考に、投稿者の作品空間において何が起こっているのかを内在的に分析する。投稿者たちが文芸欄で「書くこと」によって、自らの環境を相対化し実際に移動しながら、固有の領域を制作していたことを明らかにする。そして、そのような文芸欄の制作空間が、同時代の「町」とも地続きであることを示した。
著者
秋吉 大輔
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.78-92, 2017-05-15 (Released:2018-05-15)

三島由紀夫「弱法師」(一九六〇)は、これまで「盲目」と晴眼者の世界を二項対立で捉えることで、三島の述べる「形而上学的主題」(「あとがき」『近代能楽集』新潮社、一九五六年四月)を明らかにすることに焦点が絞られてきた。本論では家庭裁判所や戦災孤児としての俊徳を分析することで、個人的な視覚経験がどのような形で「盲目」として表象されるのか、その権力編成のあり方を明らかにする。家庭裁判所での発話が近代的な家族を前提にしていることを明らかにし、家族の物語という了解枠組みに沿わない俊徳のトラウマ的な視覚経験の語りが、家族の権力編制の中で「子ども」「狂人」「盲者」として配置され抑圧されていくさまを明らかにした。