著者
秋篠 憲一
出版者
同志社大学人文学会
雑誌
同志社大学英語英文学研究 (ISSN:02861291)
巻号頁・発行日
no.79, pp.1-22, 2006-03

13世紀の前半にアングロ・ノルマン語でGui de Warewicが書かれて以来、聖人伝と騎士物語の要素を兼ね備えたGuyの物語は聴衆・読者を魅了し、その13世紀のロマンスを基にした中英語で書かれた作品も三つの写本の中に残っている。拙論では、現存する中英語版の中のCaius写本をとりあげ、典拠となったアングロ・ノルマン語版や他の中英語版と比較し、その特徴について考察する。方法としては、Caius写本独自のものであるAthelstan王のGuyへの弔詞に焦点をあてる。王が隠者として昇天したGuyへ捧げる46行にわたるこの哀悼の辞は詩の中で注目に値する。他の版に比べて簡略化が目立つこの詩人がなぜ弔詞を加筆したのか。王は主人公のいかなる"adventures"をどのように語り、評価するのか。この弔詞がロマンスにおいて果たす役割はなにか。またこの弔詞ときわめて簡略化が目立つ回心、告白の場面および重要なエピソードの改変、削除との関連性はあるのか。さらに王によるGuyの武勲の総括があるのに、なぜエピローグで詩人自身が再度Guyの生き様をふりかえるのか。これらの疑問に答えていく。Caius写本版では、騎士GuyのFelice (happyを意味するラテン語のfelixから由来)への愛の奉仕と、回心後の巡礼・隠者Guyの神への愛の奉仕が描かれる。詩人はGuyの人生がこの世の「幸福」から天の「至福」への遍歴の旅であることを教える。