著者
稲垣 理佐子
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.29-37, 2018 (Released:2019-03-08)
参考文献数
20

両眼複視への対応には主にプリズム療法と手術治療がある。プリズム処方は外来診療の中で処方が可能で、観血的な治療を好まない患者、症状の変化が見込まれる場合には大変有用である。一方で処方しても適応できず苦労する症例もある。本稿ではプリズム眼鏡処方の理論と実際について述べる。 プリズムには組み込み式プリズムと膜プリズムがある。それぞれに長所、短所があり斜視角や患者の希望等で選択する。処方にあたっては、水平、上下偏位が合併する場合のプリズム合成方法や、膜プリズムの装着位置などの基礎知識が必要である。実際の検査では、患者の訴えをよく尋ね、予想される疾患から必要な検査を組み立てる。 プリズムでは回旋偏位の矯正はできないが、上下斜視は回旋偏位を伴うことが多い。そこで上下複視とともに回旋複視が存在する後天性滑車神経麻痺について、プリズムへの適応の可否を、当院のデータから検討した。疾患の原因別の調査では、外傷性に比べ原因不明群がプリズムによく適応していた。プリズム適応群は不適応群に比べて、上下偏位と回旋偏位が有意に小さく、プリズムへの適応には上下偏位と回旋偏位が関与していることが明らかになった。 プリズムは全ての複視を解消することはできず、処方にはトライアンドエラーを繰り返すこともある。プリズムの特徴を把握し、適応となる患者の候補を絞ることで、処方に費やす時間を短縮でき患者のQOLの改善につなげることができる。