著者
立山 ちづ子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.47, pp.21, 2004

目的<br>消費生活センターなどへの消費者からの相談件数が昭和45年度に比べ平成14年度は18倍に増加し、約1,048,000件となった。近年は販売方法、契約・解約に関する相談が70~80%を占め、また20歳代未満と70歳代以上がふえている。とりわけ、子どもの相談が平成8年度は10,010件であったが、平成14年度は34,046件に増加している。なかでも15~17歳の高校生期で平成13年度以降急増している。熊本県は自己破産率が毎年全国5位以内に位置し多重債務者が多い県といわれる。本研究ではこの原因を探り、さらに多重債務を防止するために、高等学校家庭科「消費と環境」での学習重点事項を明らかにすることを目的とする。<br>方法 1 熊本県における多重債務者の原因の特徴を関係機関で調べた。2 「家庭経済」に関するアンケート調査を家庭科授業時間に配布し回収する方法で行った。調査期間は平成15年11月~平成16年1月。調査は熊本県、東京都、山形県の高等学校の普通科〈進学が多い学校と少ない学校〉、工業科、農業科、商業科の1~2学年、女837人、男745人、合計1,582人。<br>結果と考察<br>? 多重債務の原因は「熊本クレ・サラ・日掛け被害をなくす会」の相談者からの調べでは(1)生活費の不足による負債の発生、(2)ギャンブル・浪費による負担の発生、(3)悪徳商法の被害による負債の発生によるものが多い。職業別でみると1位パート・アルバイト28%、2位会社員24%、3位自営業15%で多い。多重債務家庭の子どもへの直接的な影響は1位債権者からの執拗な電話〈82%〉であり、その結果として子どもは学習意欲を消失〈80%〉、親を信頼できなくなる〈58%〉、などの事態が出ている。「やみ金」と立ち向かうためには、法律的知識学習が必要であるとされている。<br>? アンケート調査結果と考察:1 高校生の収入は毎月定額の場合、3都県ともに5,000円が最多である。定額を家族からもらう者は3都県比較で山形県が多く、熊本県が最も少ない。2 携帯電話の1ヶ月の支払額は5,000円が3都県ともに最も多い。その支払い者は熊本・山形では「家族」が70%を超え、東京が58%で少なく、「私」が支払う割合は東京が27%で多い。3 小遣い帳の記入者が多いのは東京・男で9%、少ないのは山形・男で2%である。3都県ともに少ない。4 わが家のことを知る者が多いのは東京・男で、収入について38%、支出について22%であり、支出について知る者が少ないのは熊本・男で15%である。家計の収支を高校生はあまり知らない(知らされていない)、とりわけ熊本・男で少ない。5 クレジットカードの貸し借りを「してはいけない」の回答率が高いのは東京・女54%。「してもよい」の回答率は熊本・男6.3%が最多であり、熊本・女は2.4%で少ない。6 年利29.2%の1年後返済金(概算)の正解率は東京・男73%、最小は山形・女42%である。3都県ともに利息計算力をつける必要がある。7 身近に多重債務者を知る者の最多は熊本・女35%、最小の山形・男18%である。その原因の第1位は3都県女男で「サラ金利用」で、続いて連帯保証人、ギャンブル、やみ金利用、リストラ、生活費の不足である。8 借金返済不能の場合の相談相手は、1位「家族」で最多の熊本・女で70%、最小の東京・男で46%である。熊本では家族で解決しようとする傾向が強いようである。2位に「消費生活センター」、3位に「弁護士」で熊本・男8%、東京・男7%であり、法律を活用する意識が3都県ともに低い。 9 結婚式は3都県ともに1位は「シンプルで祝儀金で間に合う程度」で46%〈東京・男〉~35%〈熊本・女〉、2位に熊本の女・男ともに「豪華に、自分の貯金と祝儀金で」26%で多い。熊本県は派手にする傾向が強い。10 18歳の契約の回答は3都県ともに三分され、契約の権利と責任の理解が不十分である。11 連帯保証人は債務者が「支払えない場合には支払う」の回答が3都県ともに最多で、熊本・女88%~山形・男58%であり、正解の「貸し手の請求で支払う」は山形・男で18%~東京・女で6%と少ない。連帯保証人の役割の認識がとても低い。多重債務を防止するための学習重点事項として、(1)本人・わが家の家計の実態把握と記録の習慣化(2)地域の生活慣行のふり返り(3)関連の相談機関の活用方法(4)契約やクレジット、連帯保証人については具体的な事例を通しての理解が重要であることなどが示唆された。