著者
田部 眞治 藤田 宏人 松田 秀司 佐々木 秀和 竹中 暁恵 吉村 安郎
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.33-36, 2003-04-20 (Released:2010-06-28)
参考文献数
5
被引用文献数
1

破傷風はClostridium tetaniの産生するtetanospasminによって起こる重症感染症である。本疾患は開口障害を初期症状とすることが多く, 歯科・口腔外科を受診する症例も散見される。われわれは, 開口障害を主訴に当科を受診した破傷風5例について検討した。性別は男性1例, 女性4例で, 年齢は42~84歳, 平均69.6歳であった。すべての症例が当科受診以前に他の医療機関を受診していた。しかし破傷風と診断された症例はなく, 5例中3例は顎関節症と診断されていた。破傷風の診断には臨床症状が最も重要である。しかし近年, 破傷風は発生件数が激減し, まれな疾患となった。このため破傷風に遭遇する機会は減少しつつあり, これが診断を困難にする原因の一つであると考えられた。鑑別を要する疾患としては, 顎顔面領域の炎症性疾患などさまざまなものがあげられる。顎関節症も鑑別を要する疾患の一つである。しかし破傷風の開口障害は顎関節症のそれに比べ非常に強烈で, 術者が開口を試みるも, 著しく硬く困難であり, 開口域はほとんど改善をみないものである。それゆえ, 注意深い観察を行えば, 鑑別はそれほど困難なものではないように思われた。破傷風は診断が遅れると死を招く重篤な疾患である, したがって, 開口障害を訴える患者に対しては, 常に本疾患の可能性を念頭に置き診断にあたる必要があると考えられた。