著者
高橋 久寿 乾 泰延 三村 経夫 加藤 秀之 山野 修二 大野 義雄 竹内 悟 江崎 洋二郎 森 崇英
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.34, no.12, pp.2163-2171, 1982-12-01

hMG-hCG療法時のovarian hyperstimulation syndrome(OHS)における血清estradiol(Ed),androstenedione(A)とtestosterone(T)の変動を検討し、特にandrogen測定の意義について以下の知見をえた.1)47例の無排卵症患者(無排卵周期症2例,第1度無月経23例,第2度無月経22例)に143周期の治療を行つたところ,軽度OHSは4例,中等度OHSは4例で排卵誘発成功例の25%を占めた.2)Edは卵胞成熟徴候に平行して増加し,排卵前のピーク値は排卵成功OHS非発症群(n=9)では514.7±194.3pg/ml(増加率14.7倍),軽度OHS群では1003.5±409.9pg/ml(増加率11.8倍),そして中等度OHSでは2374.3±1345.1pg/ml(増加率42.1倍)と著明に増加し,Edのピーク値とOHSの発症とその重症度とは相関し,8例のOHSのうち,6例のEdが1000pg/mlを越えたので,このEdレベルがOHS発症予知の一応の目安と考えられた.3)Aの変動は正常周期にはみられないようなピークがEdのピークとほぼ一致してみられた.すなわち,OHS非発症群では7.3±3.2ng/ml(増加率1.4倍),軽度OHS群では8.3±3.2ng/ml(増加率2.4倍),中等度OHS群では8.4±3.3ng/m1(増加率2.7倍)であり,OHSの重症度によって増加が著しく,Edの場合と同様の傾向を認めた.4)排卵成功例の治療前T値は正常排卵周期例に比べ有意(P<0.01)に高く,治療中のTの変化はhMG投与には殆ど反応せず,hCGに切換えてから急増した.すなわち,OHS非発症例(n=6)では治療前値の2.2倍,軽度OHS群(n=4)では2.2倍,中等度OHS群(n=4)では4.7倍とOHSの重症度によって増加率があがった。5)dexamethasone抑制hCG刺激試験において,hCG刺激によるTの増加率は正常排卵周期で30.3%,第1度無月経(n=7)で63.1%であるが,多嚢胞性卵巣疾患(n=8)では166.3%と異常に高いことが示された.以上の知見から、hMGとhCGの順次投与法において,hMG投与中にはAの,hCGに切換えたあとはTの一過性の上昇がみられ,その増加率はいずれもOHSの発症と相関していることが判明した.したがって,OHS発症予知の一手段として従来から用いられているEd測定のほかにA,Tの測定も意義あるものと考えられる.