著者
竹田 らら
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.87-102, 2016-09-30 (Released:2017-04-12)
参考文献数
38

本論文は,同一参与者を含むジャンルや親疎が異なる日本語話者同士の相互行為に見る重複発話に着目した.そして,ジャンルや親疎の相違が重複発話と協調性の関係にどう影響するか,頻度と機能の面から解明を試みた.データは,親しい女子大学生ペア(以下,大学生ペア)と,初対面の女性大学教員と女子大学生ペア(以下,初対面ペア)各11組の「自由対話」と「課題達成談話」の2つのジャンルの録音資料と書き起こし資料を用いた.分析の結果,参与者間の親疎を問わず,自由対話の方がターンあたりの重複発話総数が多かった.また,あいづち(笑い)を伴う重複発話は自由対話の方が,あいづち(笑い)を伴わない重複発話や同一(類似)表現による重複発話は課題達成談話の方が多かった.さらに,自由対話での重複発話は話題の進行に寄与するが,課題達成談話での重複発話は発言内容の共通性も含めて,見解の明示に寄与していた.その上で,自由対話では雰囲気重視の協調性が,課題達成談話では内容重視の協調性が,重複発話から創出されることを示した.ただし,いずれのジャンルでも,大学生ペアでは参与者間の親近感や共感性を,初対面ペアでは距離感や沈黙への気遣いを反映する重複発話が見られた.そこから,重複発話を通して,各参与者がジャンルに応じた協調性を強く意識していたと共に,その枠内で親疎という対人関係に応じた協調性を強く意識していたことを浮き彫りにした.