著者
笠倉 和巳
出版者
東京理科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

2年目の29年度は、昨年度6種類(酢酸、酪酸、イソ酪酸、プロピオン酸、吉草酸、イソ吉草酸)の中からマスト細胞の活性化を抑制する短鎖脂肪酸として見出した吉草酸に焦点を当て、その作用機序の解明を目指した。吉草酸の作用経路としてGタンパク質受容体であるGPR109Aを介してマスト細胞に作用していることを昨年度明らかにした。GPR109Aはナイアシン(ビタミンB3)の受容体として同定された分子であり、免疫細胞においてナイアシンは、GPR109Aを介してエイコサノイドや抑制性のサイトカイン産生を促進し、抗炎症作用を示すことが報告されている。そこで、まず、①ナイアシンが吉草酸と同様にマスト細胞の活性化を抑制するか、また、②吉草酸のGPR109Aを介したマスト細胞の機能抑制にはエイコサノイド産生を介した間接的な作用があるかの検討をした。①吉草酸よりは効果は弱かったものの、ナイアシン添加によりマスト細胞の活性化が抑制された。また、ナイアシンの経口投与により全身性アナフィラキシーによる体温低下が緩和される傾向が見られた。②吉草酸およびナイアシンによるマスト細胞の活性化抑制にエイコサノイド産生が関与しているかをプロスタグランジンの合成に必要なシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤であるアスピリンまたはインドメタシンを用いて検証した。COX阻害剤処理により、吉草酸およびナイアシンによる抑制効果が打ち消された。さらに、全身性アナフィラキシーの系にCOX阻害剤を投与することにより吉草酸およびナイアシン投与によりみられた体温低下の抑制が解消した。以上のことから、吉草酸はプロスタグランジン産生を介してマスト細胞の活性化を抑制していることが明らかになった。