著者
古城 健太郎 斎藤 輝男 加瀬 佳年 等 泰三
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.569-578, 1981 (Released:2007-03-09)
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

投与した色素が気管支腺から排泄されることを利用して気管支分泌量を知ろうとする作野氏法をラットに適用し,N-acetyl-L-cysteine(NAC)および他の既知去痰薬の気道分泌に対する作用を比較検討した.次に直接気道液を定量的に採取し,液量の増減から去痰薬の効果を判定する Perry and Boyd の原法を改良した方法(Engelhorn および加瀬らの方法)を用い,正常ウサギの気道液量に対する NAC の作用を調べた.さらに,ウサギを SO2 ガスに長期間曝露し,亜急性気管支炎に罹患させ,その痰を定量的に採取し,痰の粘度ならびに痰の構成成分に対する NAC の作用を検討した.その結果下記の結論を得た.なお薬物はすべて胃内に投与した.1)正常ラットを用いた作野氏法による実験:各種去痰薬の気道分泌活性を ED35(対照値に比べ35%増加させる量)から比較すると,bromhexine・HCl 4.4mg/kg,pilocarpine・HCl 24mg/kg,potassium iodide 68mg/kg,L-methylcysteine・HCl 720mg/kg,sodiummercaptoethane sulfbnate 750mg/kg,NAC 1050mg/kg,S-carboxymethyl cysteine 1550mg/kg であった.はじめの3者は気道分泌量増加を主作用とし,後の4者は痰の粘度低下を主作用とする去痰作用機序の相違と思われる効果の差がみられた.2)正常ウサギを用いた気道液量測定実験:NAC 500mg/kg では,投薬後2時間目に気道液量が増加する傾向がみられたが有意ではなく,1000mg/kg および 1500mg/kg に増量すると,3~5時間をピークとして気道液量は有意に増加した.500mg/kg 以上の用量を投与すると,投薬後2時間目ごろから気道液の白濁がみられ,NAC が粘稠な気道液を流動化していることが推察された.3)亜硫酸ガス気管支炎ウサギを用いた実験:NAC 1000mg/kg および 1500mg/kg により,投薬後6時間分の痰の粘度は用量依存的に低下し,痰の凍結乾燥物質重量,蛋白質量および糖質量も痰の粘度に比例して減少した.以上の 成績より,NACは痰の粘度を低下させて痰の流動性を増し,さらに気道液量増加による痰の稀釈が加わって痰を出し易くするものと思われる.