著者
喜名 美香 坂梨 まゆ子 新崎 章 筒井 正人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.151, no.4, pp.148-154, 2018 (Released:2018-04-07)
参考文献数
16
被引用文献数
3 4

一酸化窒素(NO)はL-arginineからNO合成酵素(NOSs)を介して産生されが,最近,その代謝産物である亜硝酸塩(NO2-)および硝酸塩(NO3-)からNOが産生される経路が発見された.レタスやホウレン草などの緑葉野菜には硝酸塩が多く含有されている.しかし,硝酸塩/亜硝酸塩(NOx)の不足が病気を引き起こすか否かは知られていない.本研究では,『食事性NOxの不足は代謝症候群を引き起こす』という仮説をマウスにおいて検証した.私達は過去に,NOSs完全欠損マウスの血漿NOxレベルは野生型マウスに比して10%以下に著明に低下していることを報告した.この結果から,生体のNO産生は主として内在するNOSsによって調節されていること,外因性NO産生系の寄与は小さいことが示唆されたが,低NOx食を野生型マウスに長期投与すると意外なことに血漿NOxレベルは通常食に比して30%以下に著明に低下した.この機序を検討したところ,低NOx食負荷マウスでは内臓脂肪組織のeNOS発現レベルが有意に低下していた.重要なことに,低NOx食の3ヵ月投与は,内臓脂肪蓄積,高脂血症,耐糖能異常を引き起こし,低NOx食の18ヵ月投与は,体重増加,高血圧,インスリン抵抗性,内皮機能不全を招き,低NOx食の22ヵ月投与は,急性心筋梗塞死を含む有意な心血管死を誘発した.低NOx食負荷マウスでは内臓脂肪組織におけるPPARγ,AMPK,adiponectinレベルの低下および腸内細菌叢の異常が認められた.以上,本研究では,食事性NOxの不足がマウスに代謝症候群,血管不全,および心臓突然死を引き起こすことを明らかにした.この機序には,PPARγ/AMPKを介したadiponectinレベルの低下,eNOS発現低下,並びに腸内細菌叢の異常が関与していることが示唆された.
著者
生越 貴明 筒井 正人 矢寺 和博 迎 寛
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.155, no.2, pp.69-73, 2020

<p>一酸化窒素(NO)やその合成酵素(NOSs系)の肺高血圧症における詳細な役割は未だ十分に解明されていない.そこで我々は肺高血圧症,特に呼吸器疾患に合併した肺高血圧症(第Ⅲ群)におけるNO/NOSs系の役割に注目し,臨床検体とtriple n/i/eNOSs欠損マウス(NOSs系完全欠損マウス)を用いた多面的な病態解析を試みた.最初に第Ⅲ群の代表的な疾患である特発性肺線維症の患者において肺動脈収縮期圧と気管支肺胞洗浄液中NOx(nitrate+nitrite)濃度を調べたところ,有意に逆相関しており,第Ⅲ群の肺高血圧症において肺内のNO産生が低下していることを明らかにした.次にマウスを用いた低酸素性肺高血圧症モデルを作成し,その肺循環動態を比較した.そのところtriple NOSs欠損マウスは野生型マウスに比して高度な肺高血圧症を呈していた.さらには低酸素曝露後のtriple NOSs欠損マウスでは,血中骨髄由来血管平滑筋前駆細胞数の増加を認め,同時に緑色蛍光タンパク質(GFP)発現マウスの骨髄を移植したtriple NOSs欠損マウスにおいては肺血管病変にGFP陽性細胞を直接認めた.重要なことに,野生型マウス骨髄の移植に比してtriple NOSs欠損マウス骨髄の移植は野生型マウスの肺高血圧症を悪化させ,逆にtriple NOSs欠損マウス骨髄の移植に比して野生型マウス骨髄の移植は,triple NOSs欠損マウスの肺高血圧症を改善させた.また,野生型マウス骨髄の移植に比してtriple NOSs欠損マウス骨髄の移植は,野生型マウス肺における免疫と炎症関連遺伝子を多数亢進させていた.以上の結果から,NOS系,特に骨髄NOSs系は第Ⅲ群の肺高血圧症において重要な保護的役割を果たし,その経路には免疫や炎症を介した機序が関与していることが示唆された.</p>

1 0 0 0 序文

著者
筒井 正人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.155, no.2, pp.61, 2020
著者
喜名 美香 坂梨 まゆ子 新崎 章 筒井 正人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.151, no.4, pp.148-154, 2018
被引用文献数
4

<p>一酸化窒素(NO)はL-arginineからNO合成酵素(NOSs)を介して産生されが,最近,その代謝産物である亜硝酸塩(NO<sub>2</sub><sup>-</sup>)および硝酸塩(NO<sub>3</sub><sup>-</sup>)からNOが産生される経路が発見された.レタスやホウレン草などの緑葉野菜には硝酸塩が多く含有されている.しかし,硝酸塩/亜硝酸塩(NOx)の不足が病気を引き起こすか否かは知られていない.本研究では,『食事性NOxの不足は代謝症候群を引き起こす』という仮説をマウスにおいて検証した.私達は過去に,NOSs完全欠損マウスの血漿NOxレベルは野生型マウスに比して10%以下に著明に低下していることを報告した.この結果から,生体のNO産生は主として内在するNOSsによって調節されていること,外因性NO産生系の寄与は小さいことが示唆されたが,低NOx食を野生型マウスに長期投与すると意外なことに血漿NOxレベルは通常食に比して30%以下に著明に低下した.この機序を検討したところ,低NOx食負荷マウスでは内臓脂肪組織のeNOS発現レベルが有意に低下していた.重要なことに,低NOx食の3ヵ月投与は,内臓脂肪蓄積,高脂血症,耐糖能異常を引き起こし,低NOx食の18ヵ月投与は,体重増加,高血圧,インスリン抵抗性,内皮機能不全を招き,低NOx食の22ヵ月投与は,急性心筋梗塞死を含む有意な心血管死を誘発した.低NOx食負荷マウスでは内臓脂肪組織におけるPPARγ,AMPK,adiponectinレベルの低下および腸内細菌叢の異常が認められた.以上,本研究では,食事性NOxの不足がマウスに代謝症候群,血管不全,および心臓突然死を引き起こすことを明らかにした.この機序には,PPARγ/AMPKを介したadiponectinレベルの低下,eNOS発現低下,並びに腸内細菌叢の異常が関与していることが示唆された.</p>
著者
柳原 延章 豊平 由美子 上野 晋 筒井 正人 篠原 優子 劉 民慧
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.132, no.3, pp.150-154, 2008 (Released:2008-09-12)
参考文献数
32

私達の食生活において摂取する食品の中には多くの植物性エストロゲンが含まれる.例えば,大豆食品のダイゼインや赤ワインのレスベラトロールなどがそうである.ここでは,植物性エストロゲンによる神経伝達物質のカテコールアミン(CA)動態に対する影響について紹介する.実験材料としては,中枢ノルアドレナリン(NA)神経や交感神経系のモデルとして広く利用されている培養ウシ副腎髄質細胞を用いた.植物性エストロゲンのダイゼインやレスベラトロールおよび女性ホルモンの17β-estradiol(17β-E2)は,チロシンからのCA生合成を促進し,同時にチロシン水酸化酵素を活性化した.さらに,細胞膜を通過出来ないウシ血清アルブミン(BSA)を結合させた17β-E2-BSAも17β-E2と同様に促進効果を示した.これら植物性エストロゲン等によるCA生合成促進作用は,エストロゲンの核内受容体阻害薬によって抑制されなかった.また,高濃度のレスベラトロールやダイゼインは,生理的刺激のアセチルコリン(ACh)によるCA分泌や生合成の促進作用を抑制した.一方,副腎髄質より分離調整した細胞膜は,17β-E2に対して少なくとも2つの特異的結合部位(高親和性と低親和性)の存在を示し,高親和性の17β-E2結合はダイゼインにより濃度依存的に抑制された.以上の結果から,植物性エストロゲンのダイゼインおよびレスベラトロールは,細胞膜エストロゲン受容体を介してCA生合成を促進するが,高濃度では逆にACh刺激によるCA分泌や生合成を抑制することが示唆された.