著者
箕口 秀夫 丸山 幸平
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.320-327, 1984-08-25
被引用文献数
12

ブナ殻斗果の発達およびその動態を1981年に調査した。外部形態的な大きさは6月に最大に達し, 8月下旬から9月下旬をピークとして内部の充実がみられた。胚の発生は7月上旬に認められ, 落下直前には胚長比で80%, 胚重比で70%に達した。落下は8月から始まったが, 本格的な落下は9月下旬からで, 10月中・下旬に落下量は最大となり, 11月には急減した。堅果の稔性は落下最盛期に最も高かった。落下状況から落下時期を4期に分けた。m^2当りの落下堅果数は739±82個と大豊作で, 健全, シイナ, 虫害, 鳥獣害堅果の割合は, それぞれ71.8%, 13.5%, 13.3%, 1.4%であった。人工散布堅果により調べられた齧歯類の影響は, 落下最盛期に小さくなった。翌春までの落下堅果残存率は約20%で, m^2当り約100個の堅果が発芽可能ということになる。これは不作年と対照的であった。以上のことから, 豊凶差が著しく, その周期も長いブナの再生産様式は, 捕食圧を回避し更新を可能にする適応戦略の一手段とも考えられる。