著者
箕輪 佳奈恵
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.385-392, 2017 (Released:2018-03-31)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本論文では,イスラム諸国における美術教育の包括的な特色と傾向について,特にイスラムという宗教との関連性に焦点を当てて明らかにした。イスラムを文化的基盤とする世界では,人物・動物表現が忌避されるなど美術表現に関してある種のタブーが存在することが知られているが,イスラムを国教とする敬虔な国々であっても,美術教育に相当する教科は存在している。それらの教科は概して,子どもの自己表現を重んじる近代美術教育の流れを汲むものであり,イスラムに関連する表現を学ぶような例は皆無である。しかし,多くのイスラム諸国において,人物・動物表現に対する是非や個人主義的な美術表現への疑問といった,イスラムと美術教育とのデリケートな問題が生じていることが明らかとなり,ムスリムの子どもに適した美術教育の必要性が考察された。
著者
箕輪 佳奈恵
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.401-413, 2016 (Released:2019-08-26)
参考文献数
11

本論文は,イスラム世界における美術教育と宗教との関係性について,ムスリムの教師による授業実践の観察と彼らへのインタビューを通して明らかにするものである。調査中の授業実践からは宗教的要素は顕在化しなかったが,教師たちと重ねた対話から,彼らの実践する美術教育には,表現への配慮を要するという従来のイスラム世界の美術教育における消極的な認識だけではなく,宗教との関連を肯定的に捉える側面が存在するという事実が浮かび上がってきた。彼らは,一見イスラムとは無関係に思える事柄について,信仰と美術教育とのつながりを見出し,実践に価値を与えていたのである。この研究結果は,イスラム文化に即した美術教育の発展の基盤となる,新たな知見を提示するものである。
著者
箕輪 佳奈恵
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.321-328, 2019 (Released:2020-03-31)
参考文献数
39

モルディブにおける,観光産業の促進を背景とした1980年代以降の急激な経済発展は,それまで伝統的手工芸やヤシを用いた造形などに限られていた同国の美術文化にも変化を生じさせた。それは,「ファインアートとしての美術文化」がもたらされるとともに,従来の伝統が「観光産業としての美術文化」として新たな役割を担うことになったことを意味する。新たな美術文化の潮流の誕生は,伝統の刷新を意味するわけではなく,歴史的経緯や社会状況,そして国教であるイスラムなど,多様な要素が複雑に絡みあって存在している。本論文は,そのようなモルディブの美術文化を,現代的文脈から考察し,新たに捉え直すことを目的に論考するものである。