著者
市川 寛也
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.73-80, 2016 (Released:2017-03-31)
参考文献数
52

本研究は,1950年代から60年代にかけての野外彫刻の場として公園が果たしてきた役割を考察することを目的とするものである。この時期の両者の関係に着目すると,①公園を背景として彫刻を設置する事例と,②公園の構成要素として彫刻を取り込んでいる事例とに大別できる。前者は,戦後の街頭美化運動と結びつきながら,企業による社会貢献事業として推進されてきた側面が大きく,個人の作品が鑑賞されることに重きが置かれる。一方で,後者は特定の機能を持った構造物として設置されるため,使用されることに本質がある。その中でも,本稿ではプレイ・スカルプチャーの受容に焦点を当てた。北欧から世界に広がっていったこの遊具は,抽象彫刻の造形性を取り入れながら,児童が遊び方を創造することが重視される。結果的にこれらは遊具としての機能に特化されていったのだが,ここにはもうひとつの野外彫刻のあり方を見出すことができる。
著者
市川 寛也
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.57-64, 2018

<p>近年の「妖怪ウォッチ」ブームに象徴されるように,今や妖怪は視覚文化として広く認知されている。一方で,民間伝承として語られてきた妖怪の多くは視覚で捉えることのできない無形の文化である。本稿では,民俗文化と大衆文化の間で揺れ動きながら形成されてきた現代の妖怪イメージを研究対象とする。その際,過去に蓄積されてきた知識や情報を参照しながら各種の表現媒体に変換されていく過程に着目し,そこに妖怪文化の持つ本質的な創造性を見出した。「妖怪をつくる」というテーマには,既存のキャラクターをモチーフとして用いるだけではなく,妖怪がつくられる仕組みを創作活動に組み込むというアプローチを想定することもできる。その実践事例として,筆者が取り組んできた「妖怪採集」というワークショップを踏まえ,現代の妖怪文化を通じた地域学習の可能性について一つの方法論を提示した。</p>
著者
武末 裕子
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.225-232, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
42

五感の中で最も原始的とみなされてきた感覚は「触覚」である。近年,その触覚を切り口とした展覧会や研究が多くみられるようになった。そうした背景や要因には触覚をキーワードとしたバーチャルでインタラクティブなメディアやシステムの開発推進,障害理解やインクルーシブ教育が国の政策として進む現状がある。また一方では,近現代彫刻の作家達の多くは触覚にインスパイアされながら表現に取り組んでおり,形態に加えて質感や素材感は彫刻を鑑賞するうえでの重要な造形要素でもあった。本論ではその歴史や近現代の彫刻家(コンスタンティン・ブランクーシ,アルトゥーロ・マルティーニ,高村光太郎 等)の彫刻作品や言葉,そして「彫刻とは何か」を論じた美術評論家であるハーバート・リードの記述,国内外の鑑賞の事例と動向から,触覚と彫刻の関係性について明らかにしていきたい。
著者
降籏 孝
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.329-336, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
26

昭和初期に,自由画教育運動が下火になる中で,地方のいくつかの学校では臨画教育ではなく児童・生徒の身の周りに目を向け生活を描かせる想画教育が行われていた。三大想画実践校の1つ山形県長瀞校の想画教育についてあらためて再考し,その教育が継承され,現在の長瀞小学校において教育実践されている経緯を調べると共に,その教育的意義を明らかにした。長瀞校の想画教育は,子供らを取り巻く家庭や生活に目を向けさせることを教育理念として,1教科の枠を越えた教科横断的な教育実践の取組みであった。それが,現在の長瀞小学校の教育にも継承され,児童たちは自然や生活を見つめ複数の教科をとおして俳句・書写・想画として表現され,地域の人々に認められる充実した教育活動となっていた。
著者
箕輪 佳奈恵
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.385-392, 2017 (Released:2018-03-31)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本論文では,イスラム諸国における美術教育の包括的な特色と傾向について,特にイスラムという宗教との関連性に焦点を当てて明らかにした。イスラムを文化的基盤とする世界では,人物・動物表現が忌避されるなど美術表現に関してある種のタブーが存在することが知られているが,イスラムを国教とする敬虔な国々であっても,美術教育に相当する教科は存在している。それらの教科は概して,子どもの自己表現を重んじる近代美術教育の流れを汲むものであり,イスラムに関連する表現を学ぶような例は皆無である。しかし,多くのイスラム諸国において,人物・動物表現に対する是非や個人主義的な美術表現への疑問といった,イスラムと美術教育とのデリケートな問題が生じていることが明らかとなり,ムスリムの子どもに適した美術教育の必要性が考察された。
著者
奥田 秀巳
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.57-64, 2022 (Released:2023-03-31)
参考文献数
23

本研究は,今後の学校教育における対話型鑑賞の展開の方向性を明らかにすることを目的とする。近年,学校教育での鑑賞教育において,対話型鑑賞の方法を取り入れる試みが行われている。だが,Visual Thinking Strategies(以下VTSと略)に代表される対話型鑑賞に関する研究が進むことで,いくつかの新たな対話型鑑賞の方法も提案されてきた。本研究では,まずVTSについての先行研究を考察する中で,VTSが特定の美的発達段階にある鑑賞者を対象にした方法であることを確認し,異なる美的発達段階に移行するためには,対話型鑑賞の方法の展開が必要となることを明らかにする。次に,対話型鑑賞の方法の展開の方向性として,「対立関係が消去されるのではなく維持されるような対話の場」の実現が求められることを明らかにし,そのような場がいかにして実現できるのかを,対話型鑑賞の実践事例を手がかりにして検討する。
著者
柳沼 宏寿
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.417-424, 2017 (Released:2018-03-31)
参考文献数
13

本研究の目的は,現代社会の様々な領域に指摘される「ヴァルネラビリティ(脆弱性)」に対して,映像メディア表現がそれを乗り越え,「レジリエンス(回復,復元力)」へつながる構造を開示することである。本論では,昭和中期に興った映画鑑賞に関する実践「本宮方式映画教室運動」に焦点を当てる。それは,劣悪な教育環境下にあった戦後の日本において,学校・保護者・地域社会が連携して構築した教育システムである。その原動力は,母親を中心として組織された「青いえんぴつの会」であった。本論では,まず,当時本宮小学校教諭として実践を推進した岡部司(おかべ つかさ)の著書や,当時の母親達から情報を得ながら,「本宮方式」の方法論やその教育的意義を浮き彫りにした。また,それをマクルーハンのメディア論の視点から分析し,ヴァルネラビリティからレジリエンスを引き出す手がかりを得ている。
著者
竹本 悠大郎
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.145-152, 2021 (Released:2022-03-31)
参考文献数
34

本研究は,彫刻制作を素材や環境などモノとのやり取りにおける形態の探究と位置付け,その内容と制作者の思考について論じたものである。人間と同様にモノの働きを認める「アクターネットワーク理論」を手掛かりに,作り手の視点からL.クラーゲスの「リズムと拍子」についての著述を参照し,素材と制作行為の関係性を検証した。生命現象としての「素材のリズム」と制作行為は,互いに影響し合う相補関係にある。そして,その検証をもとに西平直が示す世阿弥の稽古哲学を引きつつ,彫刻家の作品と言葉を分析し,モノの働きと制作者の思考を明らかにしていった。制作者の思考にはスキルの習得と,モノとのやり取りによりスキルへの囚われから脱け出そうとする相反した方向性がみられる。彫刻制作において制作者は,この矛盾する二つのベクトルを往還することで,作品とともに自らをつくりかえ,これまでのものの見方を越え出てゆく。
著者
小野 文子 間島 秀徳
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.129-136, 2016 (Released:2017-03-31)
参考文献数
16

本稿は,「日本画とはなにか」という問いに焦点をあて,現代と明治期それぞれの時代におけるグローバリゼーションに接点を見出し,明治期に始まる政策としての「日本画」創出について考察したものである。「日本画」の誕生には,明治期に欧化主義のなかで西洋の価値基準を取り入れ,新たに自国の絵画を作りだそうとした歴史的背景があり,お雇い外国人アーネスト・F・フェノロサの関与は,このことを明確に表している。さらに,フェノロサと金子堅太郎,J.McN.ホイッスラーとの関わりに着目すると,「日本画」の創出が,国家戦略,そしてグローバリゼーションによって広がる多様な価値観のなかで誕生したことが分かる。本稿では,対西洋としての「日本画」について,その誕生の歴史的経緯を吟味し,1980年代から90年代にかけての「日本画」の再考について論じた。
著者
横江 昌人
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.305-312, 2021 (Released:2022-03-31)
参考文献数
16

科学技術の発展により,絵画では新しい画材による表現が主流になりつつある。だが,その一方で現代社会では環境対策と安全管理を強く求められている。このような風潮は美術界にも波及し,産業に関係の深い工芸に限定されず,版画や絵画にも広がり,美術家の健康問題にまで関係する問題である。欧州では,これまで普通に使用できた画材が規制され,日本でも毒性や安全管理上の制限が検討されるようになった。また,世界中でマイクロプラスチックの海洋汚染が問題となり,合成樹脂であるアクリル絵具には,環境問題につながる危険性が懸念される。そこで絵画においても油彩画やテンペラ画など天然由来の材料による,より安全な絵画授業を検討するべきである。筆者のグリザイユ画やテンペラ画の授業での取り組みを報告し,安全で扱いやすく,利便性と共に教育効果の高い技法と,環境に配慮した後片付けの取り組みを明らかにする。
著者
藤田 寿伸
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.217-224, 2021 (Released:2022-03-31)
参考文献数
43

ブルーノ・ムナーリによる子どものための芸術教育について,その活動と先行研究を調査し,ムナーリの教育観と教育手法がどのように形成されたか,先行研究を参照しながら考察する。本研究ではムナーリ本人の著書研究と関連文献調査,関係者への聞き取りによってムナーリの教育の概要の把握と後継者たちが展開する「ブルーノ・ムナーリ・メソッド®」を調査し,またイタリアにおいてムナーリの教育がどのように理解されているか,ムナーリによるワークショップ教育と幼児教育の関係性について考察した。日本でのムナーリの教育の周知は遅れているが,ムナーリと日本の関わりは深く,芸術家ムナーリへの関心も高い。ムナーリの影響が指摘されるレッジョ・エミリアの幼児教育への関心が日本では高まっており,ムナーリの教育手法と教育哲学の理解が,日本の幼児教育における創造的教育方法開発のヒントとなることが期待できる。
著者
市川 寛也
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.57-64, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
36

近年の「妖怪ウォッチ」ブームに象徴されるように,今や妖怪は視覚文化として広く認知されている。一方で,民間伝承として語られてきた妖怪の多くは視覚で捉えることのできない無形の文化である。本稿では,民俗文化と大衆文化の間で揺れ動きながら形成されてきた現代の妖怪イメージを研究対象とする。その際,過去に蓄積されてきた知識や情報を参照しながら各種の表現媒体に変換されていく過程に着目し,そこに妖怪文化の持つ本質的な創造性を見出した。「妖怪をつくる」というテーマには,既存のキャラクターをモチーフとして用いるだけではなく,妖怪がつくられる仕組みを創作活動に組み込むというアプローチを想定することもできる。その実践事例として,筆者が取り組んできた「妖怪採集」というワークショップを踏まえ,現代の妖怪文化を通じた地域学習の可能性について一つの方法論を提示した。
著者
小野 文子
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.97-104, 2017 (Released:2018-03-31)
参考文献数
33

19世紀後半,日本,西洋ともに,異文化と出会うことで自らの伝統を見直し,新しい芸術表現を探究した。J. McN.ホイッスラーは,イギリスのジャポニスムにおいて,最も早い時期から日本美術への傾倒を示した画家であり,東西の美の普遍性と融合を唱えた。本稿では,ホイッスラーを出発点として,東西の芸術文化交流における,チャールズ・ラング・フリーア,アーネスト・フェノロサ,金子堅太郎の関わりに焦点を当て,その広がりについて吟味し,画家,パトロン,お雇い外国人,そして官僚が,19世紀後半から20世紀にかけてのグローバリゼーションの中で,国境を超えた美の広まりに,それぞれの立場から歴史的役割を担っていたことを明らかにした。また,東西の芸術の源流を,西欧芸術の美の規範である古代ギリシャに求め,「普遍的に広がる美」を肯定したことを示した。
著者
池内 慈朗
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.33-40, 2016 (Released:2017-03-31)
参考文献数
23

表象は,ここにいながら自分の前にないモノ・世界を想起する能力である。幼児期,あるモノがそれ以外の何か別のモノをさすことを理解できない時期が存在し,小さな椅子に無理やり腰掛けようとするスケール・エラー等がみられる。本論考では,第一に,幼児期,「表象」「二重表象」を用いてどのように世界を構築していくのか,第二に人のミニチュア(縮小物)への嗜好等を俯瞰し,幼児期における“ごっこ遊び”などから表象理解,スケール理解について考察する。第三に,認知考古学からみた初期人類の知能の用い方と現代人類のMI(多重知能)理論の用い方の違いについて比較し,イメージ・スキーマ,プライマリー・メタファーの発現期を探る。古代から現代に至る過程で,認知的流動性の産物として生まれた芸術であるが,その(芸術)理解の基礎となる時期として,幼児期の2–3歳は重要な時期にあたることを検証したものである。
著者
岡田 匡史
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.113-120, 2019 (Released:2020-03-31)
参考文献数
55

本稿は連稿後篇となる。前稿でレンブラント「夜警」読解に際し,7段階・15項目で成る鑑賞学習プログラムを提起し,第1・3段階(観察,解釈)を論じたが,本稿では第2・4・7段階(形式的分析,知識補塡[情報提供],補充課題)を扱った。第5・6段階(再解釈,判断&評価)は別の機会に譲る。第2段階で油絵の具の賦彩特性と画面構成上の特質を挙げ,形式的状態に主題把握に通ずる道筋が潜む点に言及した。第4段階の主要論題は,美術史的背景,図像学的特徴,エピソードとした。美術史学習の進め方に関し,藤井聡子・梶木尚美による歴史学習と絵画鑑賞を連結する教科横断型授業実践を参照した。図像学的観点から「夜警」を解す試みや,補助的だが時に主題に直結しもするエピソードの機能も論じた。第7段階(補充課題)では,東西比較,絵を聴く,自画像捜し,ロールプレイ,脱整列型記念写真撮影を概説し,本稿を締め括った。
著者
手塚 千尋
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.233-240, 2018

<p>本研究は美術教育における「協同的な学び」を「協同的創造」の学習活動と定義し,アート(美術)による協同的問題解決の学習活動として取り組むための理論構築及び方法の検討を目的としている。本稿は,デザインベース研究(design-based research; DBR)に則り,前稿で再検討した仮説理論に基づく実践の相互作用分析を通して,協同的創造による問題解決場面から10の要素を抽出し,「協同的創造」の3つの学習環境デザイン原則を導き出した。1)構成員が集団的責任を認識し,役割の発見ができること,2)ことばと視覚の対話によるアイデアの生成と共有ができること,3)アイデアの多様性の保証と発展を実現することである。今後は,協同的創造による問題解決の各場面で発揮される「スキル」を明らかにし,アート(美術)の協同的創造の学習活動で育成できる資質・能力を含むコンピテンシーを検討していく。</p>
著者
本村 健太
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.353-360, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
30
被引用文献数
1

2019年のバウハウス創立100周年を目前にして,バウハウス研究において筆者がこれまで継続してきたバウハウス神話を「脱神話化」するための歴史的考察と,バウハウスの「諸芸術の統合」及び「芸術と技術の融合」という芸術的理念を今日に引き継ぐ事例研究として取り組んだ筆者の映像メディア表現の実践を再確認するとともに,現代にまで有効なバウハウスの理念を再考し,バウハウス研究を基礎とする今後の実践的展開を示した。バウハウスに学び,未来を見据え,新しい展望によって造形における提案や解決を行う姿勢を「ニューヴィジョン」と設定し,昨今の「望ましい未来」を提案する「スペキュラティブ・デザイン」などに同様の姿勢をみた。その実践として著者が学生とともに参画し,成果を残した「岩手発・超人スポーツプロジェクト」を紹介するとともに,このテーマで思索するための「ペラコン課題」を教材化の事例として提案した。
著者
市川 寛也
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.25-32, 2021 (Released:2022-03-31)
参考文献数
71

本研究は,1919年に長野県神川村で始まった山本鼎の農民美術運動について,同時代の思想や制度における位置づけと,現代に至る受容を明らかにすることを目的とする。当時,「農民」には資本主義や都市文明への対抗を象徴するキーワードとしての意味合いが付与されていた。一方で,農民美術は農村振興のための副業として位置づけることで,広く社会へと受け入れられた点に特徴がある。ここには,経済活動を前提とした上で,美術を通して農村社会が抱える課題を解決しようとした現実的な方策が見られる。また,農村における「創造的労働」の実現を目指した山本の理念には,社会教育としての意義も見出される。農民という言葉の持つ意味合いが大きく変化した現在もなお,農民美術は長野の伝統工芸として受け継がれている。100年間にわたる受容の変遷を辿ることで,新たな文化運動が伝統として定着していく地域文化創造のプロセスを示した。
著者
髙橋 智子
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.137-144, 2021 (Released:2022-03-31)
参考文献数
23

近年,グローバル化社会の中で,国際的に活躍する人材育成のため,自国の伝統や文化についての理解や継承・発展のための教育の在り方が問われている。平成29年には学習指導要領が改訂され,国内の造形・美術教育の在り方を再検討する動きが顕著になっており,造形・美術教育においても伝統や文化の学習の在り方が問われている。本研究の目的は,造形・美術教育における伝統や文化の学習の在り方を探ることである。本稿では,大学生882名を対象に実施した伝統的工芸品に対する意識調査の報告を行う。大学生の伝統的な工芸に対する知識や興味関心等の現状と課題を分析し,造形・美術教育における伝統や文化の学習の在り方の検討に向けて重要となる視点を提示した。その結果,学校教育における学びの重要性や表現と鑑賞を関連させた題材検討の必要性,幅広い分野からの題材設定の重要性の3つの視点が確認できた。