著者
安藤 隆之 粟倉 宏子 酒井 正志
出版者
中京大学
雑誌
文化科学研究 (ISSN:09156461)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.1-71, 1989-12-16
著者
水野 信男 西尾 哲夫 堀内 正樹 粟倉 宏子 川床 睦夫
出版者
兵庫教育大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

本研究では主にシナイ半島南部を調査対象地域とし、その遊牧民の伝承文化を学際的見地から、民族誌の諸手法をもとに解明することを目的としている。以下、交付申請書の実施計画と対応させながら、本年度の調査でえられた研究成果を略述する。なお本研究の研究成果の本格的なまとめは、6.でのべるように、来年度いっぱいをかけておこなう予定である。1.方言、口承文芸、歌謡、器楽、舞踊の記録・採集ならびに分析と考察。(1)方言については、トゥール市近郊のワ-ディ村で、ジェベリエ族の言語の記録・調査を実施した。その結果、彼らの方言が、シナイ半島の遊牧民のなかでも、特別の言語形態をもっており、中世以来のシナイ半島の宗教史ともかさねあわせて分析・整理することが可能となった。(2)口承文芸については、各部族の由来にかんする説話を中心に採集・記録した。解読作業はまだ途中であるが、その多様な語り口は、遊牧民各部族の系譜をたどる糸口を提示しているようにおもえる。(3)歌謡・器楽・舞踊など音楽全般については、とくに遊牧民の結婚式や聖者祭に焦点をあて、採集・録音・録画をおこなった。これらの資料分析から、彼らがアラブ民族の文化の原型をより忠実に保持していることがわかってきている。2.アラブ系遊牧民文化の東西海上交流史における位置づけ。この地域の海上交流史では、おもに紅海側の拠点港が関係しているが、今回の調査では、考古学の視点から、とくにトゥール遺跡での海上文化の流通経路と、その遊牧民文化との関連を調査した。3.聖カテリ-ナ修道院とそれに仕えてきたジェベリエ族の文化の実体調査。これは、1.の(1)とも関連するが、今回は当修道院の図書館が保有する文書(もんじょ)の収集と研究に主体をおいた。その文書類はギリシア正教関係の資料から、修道院生活・巡礼・商業などにかかわるものまで、きわめて多彩である。その解読作業は現在続行中である。シナイ半島は、歴史的にユダヤ教徒、キリスト教徒およびムスリムの巡礼路として位置づけられるが、今後のこれらの文書研究からその実態をうかがいしるデータがえられるはずである。4.現代の遊牧民の生活動態調査とその文化人類学的・社会学的考察。遊牧民の生活動態を、主に各部族の現状を中心に調査した。とくに各部族が内部でかかえる諸問題、また各部族間のあいだの共同と確執、またシナイ半島の観光地化と遊牧民文化の関係などを調べた。この結果、現代の遊牧民は、かつてのアラブの文化要素を一定程度保持する一方で、社会状況の現代的変貌に対応して、その生活と文化を急激に変化させてきていることが判明した。5.現地調査拠点での野外調査記録の整理と検討。1.でのべたように、本研究では遊牧民の伝承文化を学際的に照射し、その全体像をうきぼりにすることに重きをおいてきた。このため、調査拠点都市のトゥールでは、ほぼ連日、隊員5名全員のミーティングを開催し、その情報を不断に発表・討議し、翌日以降の調査にそなえた。6.今後の研究の展開にかんする計画。本研究は本年度(単年度)で終了するため、来年度は現地でえられた調査資料の分析研究をおこない、秋には日本砂漠学会と共催で、中近東文化センターにて、シンポジゥムを開催し、あわせて調査報告書を刊行する予定である。またこのシンポジゥムでは学際的視点から、次年度以降の継続調査にむけての問題点を整理することにしている。