著者
糠谷 学
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

3-メチルコランスレン(MC)などの多環芳香族炭化水素(PAH)は,脂質代謝異常および脂肪肝を引き起こすことが報告されている.しかし,その毒性発現機構についてははとんど解明されていない.そこで.我々はDNAマイクロアレイを用いて無処置のマウスとMCを投与したマウスの肝における遺伝子の発現パターンを比較し,PAHにより発現が変化する遺伝子について検討した.その結果,多くの脂質代謝酵素遺伝子の発現がPAHにより抑制されることを明らかにした.興味深い事に,これらの遺伝子は共通して核内レセプターperoxisome proliferators-activated receptor α (PPARα)の標的遺伝子であった.このことより,PAHによる脂質代謝酵素遺伝子の発現抑制は,PPARαシグナル伝達の抑制により生じている可能性が考えられた.そこで,申請者は,PAHによるPPARαシグナル伝達機構への影響について検討した.その結果,PAHによりPPARαシグナル伝達が抑制されることを明らかにした.また,興味深いことに,この抑制はPAHと結合し活性化する転写因子・芳香族炭化水素受容体(AhR)を介していることが明らかとなった.次に,PAHによるAhRを介したPPARαシグナル伝達の抑制機構について解析を行ったところ,PPARαシグナル伝達系を構成している因子であるretinoid X receptor α (RXRα)のmRNAおよびタンパク質量の減少が重要であることを明らかにした.このRXRαの減少はAhRに依存的な現象であったことより,PAHによる脂質代謝酵素遺伝子の発現抑制およびPPARαシグナル伝達の抑制はAhRを介したRXRαの抑制が原因である可能性が考えられた。現在,この抑制機構に関するさらなる詳細な解析を行なっている.