著者
糸井 宇生
出版者
公益社団法人 日本マリンエンジニアリング学会
雑誌
日本舶用機関学会誌 (ISSN:03883051)
巻号頁・発行日
vol.6, no.12, pp.965-980, 1971 (Released:2010-05-31)
参考文献数
3

誘導電動機に電圧を突然印加すれば, 電動機には電気的過渡現象に基づく電流が流れる.この電流を突入電流と定義する.本論文では, この突入電流の性質を明らかにすると同時にその大きさを求める計算式を導く.まず誘導電動機を線形回路網とみなし, これより得られる等価回路から, 一般的な突入電流計算式を導き, これを基礎として突入電流の性質を吟味した.この結果, 突入電流は定常交流成分と二つの過渡成分とから成っていることが明らかとなり, かつ, 過渡成分の大きさは始動時に最大とはならず, ある回転速度で最大になることがわかった.これより極数変換形電動機において低速側より高速側へ切り換えたときには大きな突入電流の生ずることが明らかとなり, 回路保護用しゃ断器の過電流保護機構の設定について注意しなければならないことが実際の電動機に対する計算結果より指摘された.また, 過渡成分は始動時においては時間とともに減衰する直流であるが, 電動機が回転しているときには正弦波状に変化する.計算式としては, 任意の回転速度において電圧を印加したときに流れる突入電流の波形を表現する計算式および始動時の突入電流の波形を表わす計算式を求めた.しかし, これらの計算式は, その中に表われる定数を計算することがかなり複雑であるため, 特に実際上必要な始動時突入電流波形を簡単に求めることのできる実用的な近似計算式を導き, その妥当性について検討した.さらに, 実際の電動機の定数より, 始動時突入電流の尖頭値は, 電圧印加後約0.5サイクルに生じ, かつその大きさは電圧印加時の位相によって異なることがわかった.これらの関係から始動時における最大の尖頭値を求める近似計算式を導いた.この近似計算式は電動機の全巻線抵抗および全漏れリアクタンスを与えることにより, 約10%以内の誤差で簡単に求めることができる.なお, 計算に必要な電動機の定数は特殊かご形の場合は回転速度によって異なるので, この変化についても実際の電動機を対象として, その性質ならびに計算法について述べてある.本計算式はすべて電動機の磁気回路の飽和を無視してあるので, 実際に流れる突入電流は本計算式による値よりも幾分大きくなることが予想される.