著者
糸井 良太 田中 美栄子
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.31-37, 2013-03-12

戦略の自動進化を取り入れた繰返し囚人のジレンマモデルにおいて,特に2進表現による1次元遺伝子配列の複写変異や分離変異を点変異と組み合わせることで遺伝子の長大化の効果を考察することを目的としたLindgrenモデルがあり,その結果として生き残りやすい戦略に共通した特徴のあることが指摘された.我々はこのモデルに依拠して長大な遺伝子配列が出現するまでシミュレーションを行った結果をもとに,長期間生存する遺伝子の配列パターンに共通する性質,遺伝子長32以下の範囲内で,長寿戦略の約60%が[1001 0*0* 0*0* 0001]という形の遺伝子に対応することを突き止め,さらにこの形の遺伝子の性質が1.自分から裏切らない(最右遺伝子が1=協力),2.裏切られたらすぐに報復する(4つ組の第3要素が0=裏切り),3.裏切りが続くと自分から協力行動を行う(最左遺伝子が1=協力)の3要素であることを見出した.このことは,Lindgrenの先行研究で報告されている[1**1 0*** 0*** *001]の遺伝子配列に比べて,より明確に長寿戦略の遺伝子構造を同定することができたといえる.これらの戦略は単純なしっぺ返し戦略より強く,多様な戦略との対戦に勝利した結果,長期間生存し続けることのできるロバストな戦略であるといえる.このような戦略の出現・生存に対する条件について考察する.