著者
紙田 路子
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.13-24, 2016-03-31 (Released:2018-05-25)

本研究は小学校社会科において, 子どもの自主的自立的な価値観形成をめざし, 特定の価値に基づく態度形成をめざす, 従来多くみられた社会科授業に替わる授業構成原理を明らかにしようとするものである。 近年,市民的資質の育成を目的として,子どもの自主的自立的な価値観形成をめざす社会科授業が提案されるようになった。しかしながら,それらの研究は中等教育に関して論じられたものがほとんどであり,小学校教育現場に十分に反映されていない。その点で本研究は以下の2つの意義を持つ。 第1は,民主的価値の具体化の過程,及び,子どもの価値観形成の過程の考察をもとに,自主的自立的な価値観形成をめざした小学校社会科の授業構成原理を示したことである。 第2は,上記の授業構成原理に基づく社会科授業のあり方を,第5学年の小単元「水俣病から考える」の開発を通して具体的に示したことである。 実践の結果,子どもたちは,水俣病に関わる社会的判断の背後にある規範を認識し,規範は変わりうるものであることを理解することができた。さらに,上記の2つの過程を通して自己の価値観を相対化し成長させることができた。その上で社会問題に対する判断を行い互いの価値の違いを認識することで,社会問題に対する認識を深めることができた。