著者
細井 優子
出版者
拓殖大学政治経済研究所
雑誌
拓殖大学論集. 政治・経済・法律研究 = The review of Takushoku University : Politics, economics and law (ISSN:13446630)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.25-42, 2018-09-30

近年「社会的排除」という概念は,ヨーロッパの政治的・学問的議論において注目されている。また福祉改革をめぐる議論の中で,社会的排除への対策としての「社会的包摂」が唱えられている。しかし,その注目の高さや重要さにもかかわらず,社会的排除概念の定義はきわめて曖昧であるとの批判がなされる。実際に,社会的排除概念をめぐっては,論者によりさまざまなパラダイムや言説が用いられており明確な定義というものが存在していない。そこで本稿では,社会的排除概念の代表的な論者の議論から共通する糸を紡ぎ出すことで,社会的排除の概念整理を試みる。多くの欧州諸国において社会的排除概念はEUによって輸入されたものであるが,そのEUの社会的排除の考え方はフランスとイギリスにおける同概念に影響を受けている。フランスでは国家がその責任において排除された者の社会的・職業的な包摂を支援するという視点で論じられるのに対して,イギリスでは個人が経済的自立に責任を負い,国家はそれを支援するという視点で論じられているのが特徴である。両国の議論においても社会的排除の定義は定まっているとはいえない。そこでシルバーやレヴィタスの業績のような様々な言説を分析・分類する作業が,社会的排除概念にアプローチしていくにあたり重要な役割を果たすのである。