著者
鈴木 吉彦 竹内 郁男 細川 和広 渥美 義仁 松岡 健平
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.31-35, 1994-01-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
7
被引用文献数
2

糖尿病発病から数年でインスリン分泌が減少しketotic proneであることからインスリン依存型糖尿病 (以下IDDMと略す) と診断し, 経過観察中に多発性硬化症 (以下MSと略す) の疑いある病像を併発した23歳女性を報告する.MSは, 発病年齢が若いこと, 中枢神経病巣が複数あること, 他疾患を除外しうること, 症状が一過性であったことなどから疑いありと診断した.両疾患合併が疑われた報告は本邦で最初である.両疾患が合併しやすい理由には糖脂肪代謝異常による脱髄現象説, ウイルス感染説など種々の説がある.両者とも発病年齢, 性差, 地理的特徴, 発病頻度, 寛解期を有する点, 自己免疫異常機構を介した機序が考えられる点に共通性がある.本症例ではIDDMに対し疾患感受性HLA遺伝子であるDR4とMSに対するDR2を有する点は遺伝的背景を疑わせる.またMSの併発は糖尿病治療に種々の幣害を及ぼし, 通院中断や過食, 神経症に対する誤診を導くなど悪影響を認めた.