著者
千代 満 紺谷 真 池田 孝之
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.12-17, 2004

症例は50歳,男性.生来健康で失神の既往歴および突然死の家族歴はない.平成15年5月17日地域の祭りがあり,昼より飲酒.同日夜,祭り会場で花火遊びをしていた中学生数人に注意をした際に中学生1人に顔面を殴打された.30メートル程歩いたあと意識消失を認めた.心室細動による心肺停止にてby stander による心肺蘇生術を行いつつ当院救急外来に救急搬送された.<BR>心肺蘇生術と200Jおよび300Jの直流除細動にて自己心拍に復帰.頭部CTは正常.アルコール血中濃度は138mg/dl.急性期の体表面12誘導心電図から急性冠症候群が疑われ,緊急冠動脈造影を行ったが,右冠動脈,左前下行枝の近位部に25%の狭窄を認めるのみで,左室造影も正常であった.無酸素脳症を合併し,現在人工呼吸器および経管栄養中.<BR>入院後は心室細動,心室頻拍の再出現なく,経過の中でBrugada型様の波形も認められたが,QT延長の所見は見られなかった.<BR>心停止の原因およびアルコールと顔面殴打の因果関係は不明であり,アルコールと情動ストレスを背景とした冠動脈スパスムが原因として疑われたが確定診断は困難で,また器質的心疾患のない特発性心室細動との鑑別も困難であった.