著者
阿南 栄一朗 織部 和宏
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.15-21, 2018 (Released:2018-07-04)
参考文献数
18

気道感染後,CO2ナルコーシスを呈したため治療に難渋した症例に大建中湯や人参養栄湯,附子末の加味を行うことで改善した1症例を経験した。症例は,88歳女性。肺結核後遺症,慢性閉塞性肺疾患があり,チオトロピウム,ブデソニド吸入,ツロブテロール貼付を行っていたが,発熱後,呼吸困難が持続し,当院へ救急搬送された。CO2ナルコーシスになっていたため人工呼吸管理を勧めるものの高齢を理由に拒否され,呼吸困難や軽度の意識低下が遷延した。そこで,大建中湯,人参養栄湯,附子末を段階的に加味したところ,呼吸困難,便秘,食欲不振,意識低下の改善,動脈血中CO2濃度の低下,Ph の正常化をみた。慢性呼吸不全が悪化し,CO2ナルコーシスを生じた場合,人工呼吸管理を行うことは第一選択である。しかし,本症例のように,医療処置を拒否され治療継続困難となる場合,呼吸不全の改善に漢方を投与することで症状緩和につながる場合がある。
著者
宮西 圭太 平田 道彦 織部 和宏
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.102-107, 2020 (Released:2020-12-07)
参考文献数
10

線維筋痛症は西洋医学的には薬物治療が中心的に行われるが,その効果はときに限定的であり,日常生活に支障を来たす痛みが遷延する症例が少なくない。本報告では十味剉散により痛みが緩和した線維筋痛症の1症例を報告する。28歳女性。4年前より左上腕部の痛みが出現し,2年前より痛みが全身に拡大した。左上腕部の痛みがとくに強く「うでを下げているだけでも響く」と表現された。ほかに疲労感,頭痛,動悸など多彩な症状を併発した。 古典の記載から,血虚の症候および上肢の重さに耐えられないほどの上腕部の激痛,歩行困難を目標として十味剉散(煎じ漢方)を投与したところ,3ヵ月後には痛みは半分以下まで改善した。線維筋痛症に対してこれまでに様々な漢方薬の有効性が報告されているが,十味剉散の報告は少ない。痛みの漢方治療において「血虚,上腕痛,歩行困難」を呈する症例において,十味剉散は鑑別すべき方剤として考慮されてよいと考える。
著者
西田 欣広 楢原 久司 織部 和宏
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.856-859, 2010 (Released:2010-12-24)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

少腹急結は瘀血の腹証で桃核承気湯を用いる一指標といわれている。今回,3D画像を用いてその病態を明らかにするため解剖学的解析を行なった。対象は女性20人(うち少腹急結を認めるもの4人),男性11人(同2人)。腹壁の所見として腹直筋幅,厚さ,浅腹壁動脈およびその回旋枝の走行異常の有無について解析した。腹腔内は腹壁直下の腸管所見について解析した。さらに左右の腹直筋離開(画像的に小腹不仁あり)の有無について検討した。女性群では年齢(53.1 ± 18.3 vs.33.0 ± 9.8,p < 0.05),経産数(1.5 ± 1.0 vs.0.25 ± 0.5,p < 0.05),腹直筋の厚さ(8.14 ± 2.5 mm vs.12.4 ± 1.6 mm,p < 0.05)において明らかな有意差がみられた。また,少腹急結を認める症例では腹壁直下のS状結腸部に便塊,ガス像を認めた。男性では有意差は見られなかった。少腹急結の腹証形成に腹直筋下部の局所的攣縮がその一因と考えられた。男性は女性とは別の機序が関与している可能性が考えられ性差を考慮する必要があると思われた。
著者
宮西 圭太 平田 道彦 織部 和宏
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.240-246, 2019 (Released:2020-02-05)
参考文献数
15

手指痛に対して西洋医学的検査を施行した結果,関節リウマチなどの確定診断がつかない症例が一部に存在し未分化関節炎と称される。そのような症例に対する漢方エキス剤による治療成績を報告する。対象は62症例(男性5名,女性57名,平均年齢49.7歳)であった。手指痛症例は寒証の傾向が強く,気血水では瘀血や気鬱と判断された症例が多かった。有効群は29症例(47%),軽度有効群は10症例(16%),無効群は23症例(37%)であった。最も多く使われた方剤は加味逍遥散(30症例)であった。多くの症例で複数の漢方エキス剤を併用で用いており,加味逍遥散と桂枝加苓朮附湯の併用は9症例あり,そのうち8症例が有効だった(有効率89%)。明確な診断がつかない手指痛の漢方治療では,寒証,瘀血,気鬱の傾向が強く,散寒祛湿の効能をもつ方剤や駆瘀血剤・理気剤で対応した症例が多かった。