著者
織部 恵莉 吉原 千尋 高橋 純夫 竹内 栄
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.3-11, 2009 (Released:2009-07-09)
参考文献数
55
被引用文献数
2

動物の体色には驚くほどの多様性がみられる。これは,体色が自然淘汰の様々な淘汰圧を受ける,生態学的に重要な形質であることを反映している。脊椎動物では,メラニンを用いた体色発現システムが,隠蔽,警告,性的提示などの生存戦略に関与し,体の色や色パターンに多様性を生じさせている。このような体色の多様性を創出する分子機構とはどのようなものであろうか。体色の進化や多様性の創出にも遺伝的な背景があり,原因となる遺伝子変化がある筈である。近交系マウスの毛色遺伝学の発展は,体色発現システムに関わる遺伝子の詳細な情報を提供するとともに,体色発現システムの分子レベルでの比較生物学を可能にした。本稿では,鳥類の羽色発現システムの分子機構に関する最新の知見を紹介する。羽色遺伝子座遺伝子の同定と性格付けによって,メラニンを用いた体色発現システムが鳥類と哺乳類との間で基本的に保存されていること,個々の羽や羽装にみられる複雑かつ多彩な色パターン形成に,局所性メラノコルチンシステムが重要な役割を果たしている可能性が示唆された。メラノコルチンシステム構成遺伝子の発現制御の変化が,哺乳類との体色の違いを創出する原因の一つになっている可能性が考えられる。