著者
羅 京佳 佐々木 亘 佐々木 亘 羅 京佳
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

平成23年度は、高解像度大気海洋結合モデルの長期積分(25年)の結果の解析、および、ハインドキャスト実験による熱帯低気圧の予測可能性について検討を行った。まず、熱帯低気圧の発生に適した環境場が高解像度モデルで適切に再現されているかについて長期積分の結果と再解析データと比較を行った。その結果、海面水温、大気下層の相対渦度、大気の鉛直シア、大気中層の相対湿度は再解析データと同様の空間パターンを持つことが分かった。熱帯大西洋の海面水温の東西勾配のバイアスはやや改善されたが、大西洋東部の海面水温は依然高い。したがって、モデルの水平解像度を高くすることによって熱帯大西洋の海面水温バイアスはある程度解消されるが、さらに物理スキームの改善等の必要性が示唆された。次に高解像度結合モデルで発生した熱帯低気圧を抽出し、その発生頻度の時空間パターンと強度について観測値および低解像度結合モデルの結果と比較を行った。低解像度モデルは熱帯低気圧の発生頻度を特に北半球で過小評価する傾向が見られたが、高解像度モデルでは観測値に近い発生頻度が得られた。北インド洋ではモンスーン期の前後で熱帯低気圧が発生する傾向があるが、高解像度モデルはこの傾向を再現することができた。一方、西部北太平洋の熱帯低気圧発生頻度はピークシーズンでやや過小評価であった。次にハインドキャスト実験の結果を解析した。計算機資源の制約により、2004年の1年間についてモデルの海面水温を観測の海面水温に近づけながら積分を行った。2004年は西太平洋において32個の熱帯低気圧が発生したが、ハインドキャスト実験では29個の熱帯低気圧が発生した。モデルは観測に比較してやや過小評価の傾向があることを考慮するとモデルはよく再現していると言える。この結果は熱帯低気圧の季節予測に関して、発生頻度の予測が期待できることを示唆している。しかしながら、モデル熱帯低気圧発生位置は観測よりも北でずれる傾向が見られた。