著者
翁 群儀
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.2_73-2_80, 2015-07-31 (Released:2015-10-25)
参考文献数
14

台湾における錫工芸は中国大陸漢民族の台湾移住とともにもたらされたもので,品目としては伝統的祭事道具,茶缶,蝋燭台,香炉などの生活用具が主である。しかし,台湾錫工芸の実態については,今日までほとんど把握されてこなかった。本稿は,現存する錫工芸工房への実地調査を通して,台湾における錫工芸師匠の技術伝承系譜を明らかにしたものである。それにより,次のことが明らかになった。1.台湾における錫工芸は,約200年前に大陸の福州ならびに泉州で展開されていた錫工芸従事者の台湾への移住によってもたらされ,以来,福州派と泉州派の様式が台湾での錫工芸の主流となった。2.かつては台湾西部の北から南の各地域に錫工芸師匠が工房を構えていたが,今日の北部ではその姿が皆無になり,地域的には中南部にわずかの工房・師匠の存在が確認できる。3.生活様式の西洋化などに伴い伝統的錫工芸は衰退の一途を辿りつつあるものの,技術伝承脈絡が明らかになったいくつかの錫工芸工房においては旧弊から脱皮した錫工芸の展開が図られている。
著者
翁 群儀 植田 憲 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.35-44, 2006-01-31

本稿は、台湾漆器「蓬莱塗」の意匠特質を調査・研究したものである。「蓬莱塗」は、日本領有時代の台湾において、日本人の漆器制作者であった山中公が、台湾で体験した異国情緒をモチーフとして日本人向けに制作を始めたことを起源とする漆器である。本研究では、台湾漆器の発展史とともに、「蓬莱塗」の位置づけ、ならびに、制作工程、モチーフの調査・分析などを通して、「蓬莱塗」の特徴を明らかにした。「蓬莱塗」の特徴は以下の通りである。(1)地域の実風景をモチーフとした地域性の溢れる絵柄が施されている。(2)原色の多用によって、台湾の活力が表現されている。(3)力強い彫刻によって、台湾の素朴な民風が表現されている。「蓬莱塗」は、今後においても、台湾社会を映し出す漆器デザインとして発展していくことが期待される。また、漆器のみならず、伝統的工芸品産業の発展に向けてデザインにおけるアイデンティティを確立していくことは、今後、台湾のさまざまな分野で検討されるべき重要課題である。