著者
一盛 和世 矢島 綾 肥田野 新
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.107-112, 2010 (Released:2010-09-06)
参考文献数
7

近年、病気を媒介する蚊などの生物〈ベクター〉が注目され、その対策の重要性が認識されてきている。その背景には、地球温暖化や貧困など、地球規模の健康問題が国連のミレニアム開発目標(MDG)などでクローズアップされ、世界の関心がアフリカや熱帯、感染症などに向いてきたことがあると思われる。 世界保健機関(WHO)は2004年に「総合的ベクター対策管理に関する世界戦略枠組み(Global Strategic Framework on Integrated Vector Management)」として総合的ベクター対策管理(IVM)の基本概念を提唱した。また、2008年には「総合的ベクター対策管理に関するWHO声明(WHO Position statement on integrated vector management)」を発表し、IVMの概念とそれに関する世界の動きについて概説した。本稿ではWHOのイニチアチブで発表されたこの声明を紹介する目的でこれを翻訳する。 IVMとは、『与えられた資源を最大限に利用してベクター対策を行うための合理的政策決定プロセス』であり、「ベクター伝播疾病の予防と対策に対して大きく貢献すること」を目標とする。「総合的管理」の概念は、もともと農業部門における「総合的害虫対策 (Integrated Pest Control)」に端を発している。IVMの実施には、制度を整備し、規制の枠組みや決定基準を確立し、そしてコミュニティーレベルにも適用可能な手順を構築することが必要となる。また、異なる部門間の横断的な協働体制を支え、ベクター対策活動を可能とする政策決定能力と技術を確立することも不可欠である。 2009年11月に、WHOジュネーブ本部において第1回IVMステークホルダー(利害関係者)会議が開催され、世界各国のベクター伝播疾病対策プログラムや政府・国際機関、ドナー機関、研究者その他多くのステークホルダーが出席した。そこで、科学的根拠に基づいたIVMの政策決定をさらに強化するためのロードマップが策定され、その実施を支援するパートナーシップメカニズムの構築が約束された。