著者
田村 智昭 小川 純子 谷口 登志悦 脇 功巳
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.95, no.1, pp.41-46, 1990
被引用文献数
1 3

摘出臓器標本を用いた電気刺激法により,中枢性鎮痛薬eptazocineとナビオイド受容体の相互作用について代表的なオピオイドと比較検討した.μ-,κ-受容体優位の摘出モルモット回腸標本の電気刺激による収縮に対して,eptazocine(10<SUP>-5</SUP>M)は僅かな減弱効果を示し,この作用にnaloxone(10<SUP>-7</SUP>M)は拮抗した.この標本においてμ-アゴニストmorphine(3×10<SUP>-7</SUP>M)による作用は,eptazocine(10<SUP>-5</SUP>~10<SUP>-4</SUP>M)によって完全に拮抗された.一方,δ-,μ-,κ-受容体優位の摘出マウス輸精管標本で,eptazocineは10<SUP>-7</SUP>Mから濃度依存的に減弱効果(IC50値=3,387nM)を示し,この効力は,morphineの1/5,κ-アゴニストU50,488H,ethylketocyclazocine(EKC)の1/200,1/630であった.eptazocineのこの効果は他のオピオイドと異なりnaloxoneによっては回復せず,κ-選択的なアンタゴニストMR-2266(10<SUP>-6</SUP>M)で回復した.naloxone前処置標本において求めたeptazocineに対するKe値(平衡解離定数)325nMは,比較したオピオイドの中で最も高値で,morphine(5.20nM)の62.5倍となった.一方,MR-2266のeptazocineに対するKe値は33.2nMで,ナビオイド受容体K-サブタイプ選択性の指標としてKe値の比(325/33.2)を求めると9.79となり比較したアゴニストの中で最も高い数値を示した.これらの結果からeptazocineは,アゴニスト作用は弱いがκ-受容体により選択性の高い,μ-アンタゴニスト-κ-アゴニストであると考えられる.
著者
田村 智昭 谷口 登志悦 青城 優 脇 功巳
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.95, no.4, pp.167-175, 1990
被引用文献数
1 1

マウスを用いた低酸素性脳障害モデルにおける生存時間の延長を指標に,中枢性鎮痛薬eptazocineの脳保護効果について検討した.KCN(3mg/kg,i.v.)負荷致死試験においてeptazocine 1,3,10mg/kgは生存時間を13.8,21.5,45.1%と用量依存的に延長し,この効果はnaloxone(5mg/kg)によって完全に抑制された.オピオイドκ-アゴニストのEKC,U50,488Hも有意な効果を示したが,その効力はeptazocineと比較すると弱かった,eptazocine(3,10mg/kg),EKC(10mg/kg)は減圧(190mmHg)負荷致死試験においても有意な脳保護効果が認められた.しかし,morphine(5mg/kg),pentazocine(10mg/kg)は逆に生存時間の短縮を示した.eptazocineの効果はnaloxone(5mg/kg),atropine(0.5mg/kg)いずれの前処置によっても減弱され,その作用態度はphysostigmine,diazepamの場合とは異なっていた.さらに,eptazocine(1mg/kg)とphysostigmine(0.075mg/kg)を併用した場合には相乗となった.一方eptazocine(10mg/kg)の脳保護効果は,オピオイドκ-受容体選択的なアンタゴニストMR-2266によってnaloxoneの1/5量で拮抗された.以上の結果から,eptazocineはその鎮痛用量でオピオイド炉受容体を介して脳保護効果を惹起し,その機序に脳ACh神経系の賦活化が関与する可能性が示唆された.