- 著者
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丸山 和容
腰原 なおみ
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.145, no.1, pp.27-34, 2015 (Released:2015-01-10)
- 参考文献数
- 15
デクスラゾキサン(サビーン®点滴静注用500 mg)は,アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の血管外漏出時の唯一の治療薬として,海外30ヵ国以上で承認され臨床使用されている.本邦においては「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において,医療上の必要性が高い薬剤であると評価され,キッセイ薬品工業株式会社がその開発に着手した.非臨床薬理試験においてはアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の血管外漏出による組織障害モデルとして,ダウノルビシンまたはドキソルビシンの皮下投与により誘発されるマウス皮膚潰瘍モデルを作製し,本薬の抗潰瘍作用を評価した.ダウノルビシン誘発皮膚潰瘍モデルにおいて,デクスラゾキサンの腹腔内単回投与は潰瘍発現率を用量依存的に低下させ,潰瘍面積AUCを有意に減少させた.また,本薬は1日1回3日間の腹腔内反復投与においても潰瘍発現率を低下させ,潰瘍面積AUCを著しく減少させた.同モデルにおいて,デクスラゾキサンはダウノルビシン処置後3時間までの腹腔内投与により明らかな潰瘍抑制作用を示し,ダウノルビシン処置後6時間の投与においても潰瘍面積AUCにおいて減少傾向が認められた.静脈内および腹腔内投与による本薬の抗潰瘍作用を比較検討した結果,投与経路の違いによる明らかな差は認められなかった.アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の作用は,主に二本鎖DNAを切断する酵素であるトポイソメラーゼⅡへの阻害活性によるものと考えられており,DNAが切断された状態でDNA-トポイソメラーゼ複合体を安定化させることにより細胞障害を発現する.デクスラゾキサンはアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬とは異なる部位でトポイソメラーゼⅡに結合し,アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬によるDNA-トポイソメラーゼ複合体の安定化を阻害することにより,血管外漏出による組織障害を改善するものと推察される.臨床試験においては,アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の血管外漏出患者を対象に,有効性の主要評価項目として血管外漏出に対する外科的処置率を評価した結果,海外臨床試験において本薬投与後に外科的処置が実施された患者は54例中1例のみであり,他に外科的処置が行われた患者および血管外漏出による壊死が確認された患者はなく,本薬の有効性が確認された.また,国内臨床試験においても外科的処置が行われた患者はなく,本薬の有効性が示唆された.安全性について,副作用の多くはアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の副作用として一般的に知られている事象であり回復が認められた.