著者
田山 寛豪 荒井 宏和 膳法 亜沙子
出版者
流通経済大学スポーツ健康科学部
雑誌
流通経済大学スポーツ健康科学部紀要 (ISSN:18829759)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.1-10, 2020-03

(背景)試合期のアスリートは,心身の疲労度が高い。近年,アスリートのコンディショニングには良質な睡眠が重要であることが示唆されており,注目されている。本研究は,多数ある競技の中でも1つのレース時間が長時間続くトライアスロン競技に着目した。特に連続する試合期間中のトライアスリートのコンディショニングのための最適な睡眠条件を明らかにした実践的研究に関する報告はほとんどなく実態は不明である。そこで本調査は,大学生トライアスリートにおける試合前および試合後1週間の睡眠状況を記録し,その変化の特徴を捉えることでトライアスリートのコンディショニング指標を確立することを目指した研究の予備的検討である。(方法)本調査では,エリート大学生トライアスリート6名(男性4名,女性2名)を対象とし,9月1日の競技会前後(8月20日~9月9日)における睡眠状況について機器を用いて記録するものとした。(結果)本調査により,6名中5名の大学生トライアスリートにおいてレース前に比べてレース終了5~7日後に熟眠度が10%以上大きく低下することが認められた。特に,レース前,レース当日,レース6日後の熟眠度の変化について統計的に解析するとレース後に熟眠度が低下する傾向であった。すなわち,睡眠質はレース後1週間程度すると低下する可能性がある。これと同時にレース後6,7日目に睡眠時間が短縮している者が6名中5名に認められた。本調査の対象者のトライアスロン競技レベルは高いため,個々の結果に意義があるが,対象者数は極めて少ないため,今後さらに対象者数を増やした研究で本研究の結果を追試する必要がある。(結論)本研究は,大学生トライアスリートにおいてレース前に比べてレース1週間後の睡眠質は低下する可能性を初めて見出した。この結果は,トライアスロン競技会後1週間のトレーニング内容(種類,量,強度,休養時間など)について十分配慮が必要であるとともに次のレースを実施するタイミングについて調整する必要性があることを示唆している可能性がある。特に本研究は,試合期のトライアスリートにおけるトレーニング指導のための一資料を提示したものと考える。