著者
臼杵 靖剛
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.1075-1086, 1997-10-20 (Released:2009-10-16)
参考文献数
68
被引用文献数
1

糖脂質GM3は細胞増殖の密度に応じて増加する。細胞膜のGM3は細胞増殖機能の重要なモジュレータである。一部分のGM3の代謝回転は末端に存在するシアル酸残基によって調節されている。GM3代謝酵素すなわちシアリターゼとシアル酸転移酵素の活性は細胞分裂している細胞において変化する。両酵素は, 上皮成長因子受容体のリン酸化のGM3が介在する阻害反応とともに, 細胞増殖制御において機能している。2-デオキシ-2, 3-デヒドロ-N-アセチルノイラミン酸 (NeuAc2en) はGM3シアリダーゼの有効な阻害剤であり, 細胞増殖阻害効果を示す。新しいインフルエンザウイルス感染の治療法の開発にNeuAc2enよりコンピューターを利用して分子設計された類縁体 (強力な阻害剤) が用いられた。CMP-シアル酸は生理的条件でNeuAc2enを非酵素的に生成する。生成したNeuAc2enは細胞のシアリダーゼ活性を調節している可能性が指摘できる。GM3シアリダーゼとシアル酸転移酵素の細胞内での機能を明らかにするためには, 細胞内の酵素存在部位にターゲッテングされるNeuAu2enおよびCMP-シアル酸の新タイプの類縁体が分子設計される必要がある。