著者
坂田 隆 市川 宏文
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.1205-1212, 1997-10-20 (Released:2009-10-16)
参考文献数
58
被引用文献数
3 4 18

大腸内細菌は酢酸, プロピオン酸, 酪酸のような短鎖脂肪酸をつくる。大腸内での短鎖脂肪酸生産の主要な制御要因は基質の種類と流入速度, 大腸内での内容物の滞留速度である。短鎖脂肪酸は大腸上皮細胞の主要エネルギー源であるとともに, 全身のエネルギー収支に貢献する。また, 短鎖脂肪酸は大腸での水や溶質の吸収, 大腸粘膜の血流, 腸上皮増殖, 腸運動, 膵臓外分泌などの機能に影響する。
著者
越智 知子 木下 葉子 太田 千穂 丸山 武紀 新谷 〓 菅野 道廣
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.275-283, 1996-03-20 (Released:2009-10-16)
参考文献数
15
被引用文献数
2 3

輸入品及び国産品のビスケット類に含まれているトランス脂肪酸量について調査した。1) 総トランス酸含量には輸入品及び国産品ともかなりの幅があった。主たるトランス酸は輸入品及び国産品ともt-18 : 1 であった。また, 輸入品の1銘柄と国産品の3銘柄から魚油硬化油に由来する少量の t-20 : 1, t-22 : 1が検出された。2) 輸入品の多くの試料はトランス酸を20%以上含み, 国産品の多くの試料のトランス酸は 15% 以下で, トコトリエノールが検出された。このことは輸入品は植物硬化油を多く配合し, 国産品はパーム油と植物硬化油を混合して用いることが示された。3) 各試料の1サービング当たりのトランス酸含有量は輸入品では 0.26~1.78, 国産品では 0, 40~1, 05 と算出された。日本人の1人1日当たりのビスケット摂取量から求めたトランス酸の摂取量は230 (輸入品) ~140 (国産品) と見積もられた。
著者
奥田 拓道
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.989-996,1195, 1999-10-20 (Released:2009-11-10)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

脂肪細胞には, 脂肪の合成と分解の代謝経路が存在する。脂肪合成には, グルコース経路とリポタンパク経路がある。グルコース経路については, 現在広く信じられているインスリン受容体説の他に, 我々の提唱するNa+/H+チャネル説を紹介した。また, ヒトの脂肪細胞にもATP-citrate lyaseが存在するので, グルコースからの脂肪酸合成も可能なことを示した。リポタンパク経路は, 毛細血管内皮細胞に固定されたリポタンパクリパーゼによって, カイロミクロンやVLDLの脂肪部分が分解され, 生じた脂肪酸が細胞内に取り込まれ, 脂肪に合成される経路である。合成された脂肪は小胞の二重層の内部に蓄積され, その容量を増す。したがって, 生じた油滴の表面は, 小胞膜を形成するリン脂質やタンパク質の単層膜で覆われている。カテコールアミンやACTHによる脂肪分解反応の促進はサイクリックAMP→タンパクキナーゼ→ホルモン感性リパーゼのリン酸化による活性化といういわゆるサイクリックAMP説で説明されている。しかし調べてみると, 脂肪細胞内には, ホルモンを作用させない状態でも大量のリパーゼが存在し, ホルモンによって脂肪分解が促進したり阻害されたりしても, このリパーゼの活性は変動しない。脂肪分解反応は, リパーゼ活性の増減ではなく, リパーゼと油滴との接触の程度によって調節されているのではないかという新しい提言をめぐって議論した。
著者
大島 泰郎
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.535-538,598, 1997-05-20 (Released:2009-10-16)
参考文献数
7

真正細菌及び古細菌に属する好熱性細菌の生体高分子, タンパク質, 核酸, DNA, tRNA, および生体膜を構成している脂質の主要成分について, どのように耐熱性を獲得しているか, その分子機構を概説した。
著者
石井 文由
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.1141-1148,1299, 2000-10-20 (Released:2009-11-10)
参考文献数
31

リピッドマイクロスフェア (リピッドエマルション) 製剤は植物油 (大豆油) 中に付加価値の高い薬物を溶解あるいは分散させたo/w型エマルション製剤である。この製剤では油溶性あるいは疎水性の薬物を油相である分散相に効率良く溶解あるいは分散することができる。リピッドマイクロスフェアは医薬領域におけるドラッグデリバリーシステム, つまりドラッグキャリヤー製剤として, ある特別な (病巣) 部位のみに薬物を標的化, 薬物の徐放化, 持続化, 不安定な薬物の保護, 薬理作用の増強などのような利用が期待できる。そこで本総説では, 最近の注目すべき研究例を紹介しながら, リピッドマイクロスフェアの調製から応用までを詳述する。

3 0 0 0 OA 油脂代替物

著者
後藤 直宏
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.1299-1307, 1997-10-20 (Released:2009-10-16)
参考文献数
28
被引用文献数
2 1

油脂代替物は, 炭水化物ベースの油脂類似物, タンパク質ベースの油脂類似物, 構造脂質, 合成油脂類似物よりなる。炭水化物ベース及びタンパク質ベースの油脂類似物は, 低温もしくは室温で製造されている多くの製品に現在使用されている。これらの油脂類似物は, 通常油脂の9kcal/gと比較してわずか4kcal/gしかカロリーを有さないため, 通常油脂を含む製品と比較して, これら油脂類似物を使用した製品はカロリーを低下させることが可能となる。しかしながらこれら油脂類似物は揚げ物やチョコレートには使用されない。一方, 構造脂質と合成油脂類似物は, チョコレート, 焼き物, スナック菓子に使用されている。合成油脂類似物は, 脂質の構造を持たず, 小腸内で消化されにくい。そのためこれら類似物はカロリー0, もしくはほぼ0となる。構造脂質を使用した製品は, 日本市場で既に出回っているが, 合成油脂類似物の使用はまだ日本では許可されていない。
著者
園 良治
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.1161-1168,1202, 1999-10-20 (Released:2009-11-10)
参考文献数
47

大豆レシチンは, 食品工業分野における重要な界面活性剤であり, 大豆から抽出した原油に加水し, 分離したガム質を乾燥することにより得られる。この総説では, 先ず品質の良いレシチンを得るために重要な問題点と, 筆者らで実用化した粗レシチンの直接濾過法による新規な精製法について紹介し, 近年開発され市販されている脱脂レシチン, 分別レシチン, 酵素分解レシチン, 水素添加およびヒドロキシル化等の化学修飾レシチンの製造法と特徴についても紹介した。これらの新規な製造法によって得られる生理機能に優れたレシチンが, 食品分野のみならず医薬・化粧品分野へも発展していくことを期待する。
著者
菊地 幹夫
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.45, no.10, pp.1189-1199,1210, 1996-10-20 (Released:2009-11-10)
参考文献数
58
被引用文献数
4 2

界面活性剤は家庭用合成洗剤の主要成分である。河川水中から何種類かの界面活性剤がしばしば検出されるため,これらの界面活性剤の水環境への影響が米国,ヨーロッパや日本で議論されてきた。この論文ではアニオン界面活性剤について,環境汚染のモニタリング,環境中での運命,急性毒性・慢性毒性・致死濃度以下での毒性と環境リスク評価についてレビューを行った。日本では家庭排水が十分には処理されていないために,報告された急性毒性と慢性毒性の値は河川水中のLASの濃度レベルの悪いほうのケースとオーバーラップし,十分に安全であるとは言えなかった。そのほかの界面活性剤の環境安全性については,河川での汚染濃度もまた慢性毒性データも不充分であることから,最近の研究を紹介するにとどめた。界面活性剤のライフサイクルアセスメントの事例も紹介した。
著者
寺尾 純二 長尾 昭彦
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.1075-1085,1199, 1999-10-20 (Released:2009-11-10)
参考文献数
74
被引用文献数
2 1

食事中に含まれるカロテノイドは消化管から吸収され, 体内の各組織に蓄積することが知られている。しかし, その生理機能については, プロビタミンA活性以外は明らかではない。フリーラジカル捕捉や一重項酸素消去などカロテノイドの抗酸化作用はよく研究されている。しかし, この抗酸化活性が生体内に存在する抗酸化防御系にどの程度寄与するかは明確ではない。一方, 動物実験におけるカロテノイドの抗腫瘍効果は, 細胞増殖抑制や細胞分化誘導作用で説明される。また, 細胞間ギャップ結合を強めることもその抗腫瘍効果に関与する可能性がある。食事由来のカロテノイドの生理機能を評価するためには, その吸収と代謝を理解することが重要である。ビタミンA活性発現に必要な15, 15'-ジオキシゲナーゼは生体組織に広く分布し, 消化管からのカロテノイドの吸収は食事に含まれる共存物により大きく影響される。さらに, その代謝経路は, 酸化反応プロセスが示唆されているものの, まだ明らかにされていない。
著者
山村 隆治 下村 泰志
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.449-456,523, 1998-05-20 (Released:2009-11-10)
参考文献数
57
被引用文献数
2 2

エイコサペンタエン酸 (EPA), ドコサヘキサエン酸 (DHA) やドコサペンタエン酸 (DPA) を含む高度不飽和脂肪酸 (PUFA) はその生理活性から機能性食品や医薬品として注目を浴びている。中でも医薬品原料として利用したり, またその機能を確認するためにはPUFAを高度に精製する必要がある。PUFAを高度に精製するためにこれまで多くの検討がなされEPAのように実用化されているものもある。しかしPUFAの種類や由来する原料により複雑な処理工程を必要とし, 必ずしも大規模精製が完成しているとは言えない。筆者らは, DHAとn-6ドコサペンタエン酸 (DPA) を高い含量で含む海生菌から得られたSingle Cell OilエチルエステルをODS充填カラムを用いた工業的規模での分取HPLCを行い, 分取クロマトだけで高度に分離・精製されたDHA-EとDPA-Eが得られる可能性を見いだした。
著者
深澤 透 堤 崇史 東海林 茂 荏原 絋 丸山 武紀 新谷 イサオ
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 = Journal of Japan Oil Chemists' Society (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.247-251, 1999-03-20
参考文献数
11
被引用文献数
18

5種類の有機リン系農薬 (ジクロルボス, パラチオンメチル, マラチオン, クロルピリホス及びクロルフェンビンホス) を大豆油に添加し, 脱ガム, 脱酸, 脱色及び脱臭工程を行った後の精製油中の農薬残留量を測定した。得られた結果は次のとおりである。 (1) 脱ガム処理では原油中の各リン系農薬はわずかに減少した。 (2) 脱酸処理では脱ガム油中のジクロルボスは明らかに減少したが, 他の農薬は約80%以上残存した。 (3) 脱色処理では吸着剤による脱酸油中のジクロルボス及びクロルフェンビンホスの減少率はそれぞれ約70%及び60%であった。一方マラチオン及びクロルピリホスの減少率はそれぞれ約30%及び5%であった。パラチオンメチルは活性炭を含む吸着剤を用いると極端に減少した。 (4) 260℃の脱臭処理により全農薬が完全に除去された。 (5) 原油中のリン系農薬 (ジクロルボス, パラチオンメチル, マラチオン, クロルピリホス及びクロルフェンビンホス) は一般の精製処理により完全に除去されることを確認した。
著者
松崎 寿 太田 千穂 木下 葉子 丸山 武紀 新谷 イサオ 菅野 道廣
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 = Journal of Japan Oil Chemists' Society (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.195-199, 1998-02
被引用文献数
1 5

1996年に購入したポルトガル, ベルギー, オランダ, イギリス, アメリカ及び日本産の家庭用マーガリン類のトランス型脂肪酸含量について分析した。<BR>1) ポルトガル及びベルギー産マーガリンは全銘柄とも3%以下, オランダ産のマーガリン類は1銘柄を除き3%以下であった。イギリス産ではカートン包装品は3~17%, カップ包装品は1~18%で, 19銘柄中8銘柄が3%以下であった。アメリカ産ではカートン包装品が20~34%, 平均で24.8%, カップ包装品は6~23%, 平均14.2%であった。日本産マーガリン類の総トランス酸はマーガリンではハードタイプは15~28%。ソフトタイプでは総トランス酸が3%以下のものは5銘柄で, 20%を超えるものが1銘柄あった。ファットスプレッドでは総トランス酸が5.2~17.3%, 平均12.2%であった。<BR>2) イギリス, アメリカ及び日本産マーガリンの総トランス酸は, 1990~93年調査時とかわりがなかった。<BR>3) トランス酸の少ないマーガリンは飽和脂肪酸が多い傾向を示した。総トランス酸と総飽和脂肪酸量の総和はいずれの国とも類似した値である。いずれの国においても, カートン包装品のトランス酸と飽和脂肪酸の合計は, カップ包装品よりも多かった。この合計値は基本的に5カ国において同様であった。
著者
浜本 武幸 杉本 巌
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.1123-1131,1201, 1999-10-20 (Released:2010-02-19)
参考文献数
53
被引用文献数
2 2

食用油製造における脱臭工程および精製条件について紹介した。脱臭工程での精製条件は, その選択により食用油商品の品質が決定付けられるので, 脱臭工程中の精製条件の食用油の品質に及ぼす影響についても説明した。また, 最近は消費者の嗜好が多様化するに従って, 健康指向, 特徴ある風味, あるいは臭い, 汚れなどの視点で差別化した商品が食用油市場に増えてきた。これらの商品の品質を判定する手段として食用油の重合物生成や臭いなどに関する評価方法について言及した。
著者
鈴木 平光
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.1017-1024,1197, 1999-10-20 (Released:2009-11-10)
参考文献数
72
被引用文献数
3 3

魚油には, ドコサヘキサエン酸 (DHA) やエイコサペンタエン酸 (EPA) といったn-3系多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれている。これらの脂肪酸は, 心血管系疾患, がん, 炎症の予防に有効であるため, 生物学的に重要な脂質として広く認められている。さらに, 魚油, 特にDHA, の摂取は, 脳の発達, 記憶学習能, 視覚機能に影響するということが多くの研究で明らかにされている。最近では, 痴呆症や精神障害に及ぼすDHA油の予防及び治療効果が報告されている。この総説では, 魚油の健康機能についてまとめると同時に, 高齢者の知能や視力に及ぼすDHA油の効果についてのデータも紹介する。
著者
安藤 進
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.1033-1040,1197, 1999-10-20 (Released:2010-02-19)
参考文献数
40

老化に伴うニューロン機能の低下は, シナプス伝達障害に由来すると考えられる。脳としての機能低下は記憶障害で明らかにされ, その根底にあるメカニズムとしてシナプス伝達障害が証明されている。シナプス機能低下は, 脂質との関わりではシナプス膜の加齢による脂質組成と物理化学的性質の変化によって説明される。コレステロール/リン脂質(C/P)比と細胞膜内の脂質非対称性分布が, 膜の受容体機能とそれにつづくシグナル伝達機構の制御に重要な役割を果たしていると考えられる。脂質栄養学の視点から, 食物脂質のシナプス機能と, ひいては神経機能への効果を議論し, 特に摂取脂質の量と質に焦点があてられる。脂質の質については, 飽和酸, 多価不飽和酸, とりわけn-6とn-3系列の生理的効果が考察される。それら効果の分子機構も提示されている。最後に, アルツハイマー病やパーキンソン病などの病理に対して複合脂質を用いる薬理学的アプローチについても触れる。
著者
鈴木 平光
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
日本油化学会誌 = Journal of Japan Oil Chemists' Society (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.1017-1024, 1999-10-20
参考文献数
72
被引用文献数
3 3

魚油には, ドコサヘキサエン酸 (DHA) やエイコサペンタエン酸 (EPA) といったn-3系多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれている。これらの脂肪酸は, 心血管系疾患, がん, 炎症の予防に有効であるため, 生物学的に重要な脂質として広く認められている。さらに, 魚油, 特にDHA, の摂取は, 脳の発達, 記憶学習能, 視覚機能に影響するということが多くの研究で明らかにされている。最近では, 痴呆症や精神障害に及ぼすDHA油の予防及び治療効果が報告されている。この総説では, 魚油の健康機能についてまとめると同時に, 高齢者の知能や視力に及ぼすDHA油の効果についてのデータも紹介する。
著者
宮澤 陽夫
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11-12, pp.1377-1382,1445, 2000-11-20 (Released:2009-11-10)
参考文献数
50
被引用文献数
1 1

本総説は2000年度日本油化学会賞の受賞論文による。脂質分子の過酸化は, 食品の栄養価を損なうだけでなく, 多くの生化学反応に関与し, 細胞老化や疾病にも関わる。食品や生体の機能性脂質の酸化損傷を評価するには, 過酸化反応の第一次生成物であるヒドロペルオキシドの検出が欠かせない。これは, 食品の健全性やヒトの健康増進に関する研究を企画する場合の重要な解析技術でもある。1987年に筆者らは, 脂質ヒドロペルオキシドを選択的で高感度に定量する目的で, 化学発光検出-高速液体クロマトグラフ法を開発した。これにより, 食品やヒト血漿の過酸化脂質を脂質クラスごとに分析できるようになった。本法を用いて, 食品油脂の初期酸化ではトリアシルグリセロールのモノヒドロペルオキシドとともにビスヒドロペルオキシドが生成することを確認した。動物では不飽和度の高い魚油などを長期摂取すると, 組織の膜リン脂質が過酸化を受けやすくなり, 抗酸化のためα-トコフェロールの要求量の増えることが明らかにされた。細胞に過酸化脂質が増える第一の原因は, 動物個体自体の加齢・老化であることがわかった。膜脂質の過酸化は, 動脈硬化, 糖尿病, 痴呆症など老化性障害と密接に関わることを明らかにした。
著者
松岡 秀樹
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.45, no.10, pp.1087-1097,1207, 1996-10-20 (Released:2009-11-10)
参考文献数
34
被引用文献数
1

中性子小角散乱法の概要と界面活性剤会合体系への応用例について解説した。小角散乱法は数10から数100Åのディメンジョンを有する構造調査に有力な手法であるが,ミセル会合体系に関しては,ミセル粒子の大きさと形,溶液構造,粒子間相互作用,相挙動などに関する情報を定量的に与える。特に中性子小角散乱法では同位体元素を用いるコントラストバリエーション法が可能となり,X線小角散乱法では困難な粒子の内部構造や部分構造を知ることができる。種々の界面活性剤ミセルおよび高分子ミセルの構造解析への最新の応用例を紹介した。
著者
原 博
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.1237-1246, 1997-10-20 (Released:2009-10-16)
参考文献数
57
被引用文献数
1

食事脂質は, 消化管の中において, 吸収される前に粘膜細胞に受容され, 消化管ホルモンの分泌を促進する。分泌が刺激されるホルモンとしては, コレシストキニン, セクレチン, エンテログルカゴン, ペプチドYYなどである。また, 食餌脂質は消化管神経叢も刺激する。これらは, 相互作用しながら, 膵外分泌, 胃酸分泌, 胃排出速度や小腸粘膜増殖などの消化管機能を調節している。また, 脂質は粘膜細胞のイコサノイド産生を変化させることで, 炎症性腸疾患や, 大腸がんの病態にも影響を与えている。
著者
遠藤 泰志
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.1133-1140,1201, 1999-10-20 (Released:2009-11-10)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

食用油脂の主な臭気成分は, 脂肪酸ヒドロペルオキシドの分解で生じるアルデヒドやケトン, アルコール, 酸炭化水素である。含硫化合物や含窒素化合物もゴマ油やオリブ油の臭気成分となる。臭気成分の分析法には官能検査, 比色法, 臭いセンサー, クロマトグラフィー法があるが, ガスクロマトグラフィー法が最も良く用いられている。食用油脂の構成脂肪酸だけでなく, 温度, 酸素, 水分, 光, 酸性物質や, 酸化防止剤, 光増感剤, 金属といった微量成分も臭気成分の生成に影響する。