- 著者
-
船引 啓祐
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.1572, 2016 (Released:2016-04-28)
【はじめに,目的】看護師・介護士の腰痛発生率は高率であり大きな問題となっている。腰痛治療において推奨される治療の1つに認知行動療法が挙げられる。また,集団的に行う認知行動療法は,集団の作用を活用しながら認知・行動に関する知識・方法を獲得し,集団に対して治療的に働くという相乗効果が期待でき,セルフコントロール力を高めることができるとされている(岡田,2008)。そこで,当院の病棟勤務看護師・介護士98名(有効回答率84%)に腰痛の有無を質問紙による調査を実施した所,57%に腰痛の訴えがあった。本研究は当院病棟勤務看護師・介護士に対し腰痛教室を開催し,集団認知行動療法を実施することで,腰痛が軽減できるのか,また,痛み・腰痛関連QOL・不安・抑うつについても検討した。【方法】腰痛教室は第1回「腰痛基礎知識,認知行動療法」,第2回「腰痛予防対策(姿勢工夫,介助動作工夫,腰痛体操),ディスカッション」とし,1回の講義時間は40分,参加者15名程度と設定し,同内容の資料も配布した。また,腰痛教室第1回を計4回,第2回を計4回開催した。対象者は,第1・2回ともに参加した各評価において有効回答を得た非特異的腰痛者の看護師31名,介護士16名,計47名とした。評価時期は腰痛教室実施前,実施3ヶ月後とし,各評価項目における実施前後の分析を行った。評価として,痛み評価Numerical Rating Scale(以下NRS)と腰痛関連QOL評価Roland-Morris Disability Questionnaire(以下RDQ),不安・抑うつ測定尺度Hospital Anxiety and Depression Scale(以下HADS)を行い,NRS,RDQ,HADSの変化を対応のあるt-検定を用いて比較した。(p<0.05)また,Spearmanの順位相関係数を求め,相関分析を行った。集団認知行動療法実施前後のNRS,RDQ,HADSの効果量についても検討した。【結果】実施前と実施後を比較した結果,NRS(4.6±1.9→2.7±1.8),RDQ(2.5±2.5→1.2±1.7)であり,HADS不安(7.7±4.2→5.2±3.4),抑うつ(6.9±2.6→6.8±3.3),合計(14.6±5.5→12.1±5.8)であり,NRS,RDQ,HADS不安,HADS合計において有意な改善を認めた。NRSとRDQは優位に相関関係にあったが,NRSとHADS,RDQとHADSには相関が認められなかった。また,効果量については,NRS(r値:0.81),RDQ(r値:0.88),HADS(r値:0.71)であった。【結論】本研究の結果より,非特異的腰痛者において集団認知行動療法がNRS,RDQ,HADSの改善に有効であることが示唆された。またそれらの効果量においても効果を認めた。しかし,NRS・RDQとHADSに相関が認められなかった。看護師・介護士の職業性腰痛には身体的負荷以外にも精神的ストレスをはじめとする心理社会的要因が関与しているためであると考えられた。本研究より,非特異的腰痛者の看護師・介護士に対して,産業保健としての理学療法が,身体機能面だけでなく,心理・社会面のアプローチにより痛みが軽減できることが示唆された。