著者
船戸 正久
出版者
日本新生児看護学会
雑誌
日本新生児看護学会誌 (ISSN:13439111)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.2-14, 2000-03
被引用文献数
7

近代医療技術(テクノロジー)の急速な発展により多くの生命が助かるようになってきた一方,回復不能な末期患者に対しても機械的な延命が可能な時代になってきた.このことは新生児医療の分野でも例外ではなく,「How small is too small?」(超低出生体重児の成育限界)というような「やりすぎの医療」と「やらなすぎの医療」の境界を探るNICU(新生児集中治療室)内の倫理問題がにわかにクローズアップしてきた.今回,NICUで大きな問題になっている「やりすぎの医療」に対する治療中止の倫理的根拠を考察すると同時に,当院の倫理委員会で承認を受けた「倫理的,医学的意志決定のガイドライン」を紹介する.さらに新生児の「看取りの医療」のプロセスおよびより人間らしい「緩和的ケア」の導入と今後の研究の必要性について述べる.こうした倫理問題は,ただの医療技術的なTechnical skillだけでなく,より高度なHuman skillを必要とする.その基本は,科学的な予後の見通しと児の最善の利益(Best interests)を倫理的根拠に,医療チームで「自分の愛する子どもであったらどのようにしてあげたいか?」,「自分であったらどのようにしたいか?」を話し合い意志を統一する.そしてその情報を法的代理人である両親に詳しく説明し,もしその選択が倫理的許容範囲内であれば彼らの希望を最大限に尊重し,「緩和的ケア」も含んだ最適な医療の選択を専門的にサポートすることにあると思われる.Recent rapid advances in medical technology, such as mechanical ventilation and other changing technology, make it possible that many patients at in life-threatening conditions can survive without any sequelae. On the other hand, it also becomes possible that the lives of terminally-ill patients can be artificially prolonged by mechanical measures. This fact is not an exceptional event in the field of neonatal medicine. In recent years ethical problems in NICU have come into the forefront with such searching questions raised as "how small is too small?" in terms of "excessive treatment" or "too little treatment". In this paper, the ethical ground for decision-making is described in regard both to the withholding of treatment or the withdrawing of "excessive treatment" for neonates with life-threatening circumstances. Also introduced are the guidelines for ethical and medical decision-making which have been approved by the ethical committee of our hospital, The procedure for this decision-making in such cases is also explained. These ethical problems require more sophisticated humane skills, rather than technical skills alone. The ethical decision-making is based on a scientific perspective of the prognosis and the "best interests" of the infant. It is vital to consider as a team, "What is the best treatment for this infant, if he or she were my lovely baby or if I were him or her". If the parents' wishes and the informed choice of palliative care are ethically acceptable, they should be professionally supported by the team. For neonates in a clinical situation with life-threatening conditions, further developments and research of the best medical care should be carefully investigated.
著者
竹本 潔 船戸 正久
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.83-89, 2015

Ⅰ.はじめに高度な医療的ケアが必要な小児が退院して家庭で暮らすケースが増加している1)。しかし退院後の在宅療養では、介護されるご家族の長期にわたる相当な肉体的、心理的負担が発生し、日常的な外出の困難や慢性的な睡眠不足など多くの問題を抱えながら生活されている現状がある。大阪府の調査によると2)、家族が地域で安心して暮らし続けるうえで最も必要と感じているサービスはショートステイ事業所の増加であった。重度の障害を持った児を短期間施設でお預かりするショートステイはご家族が最も望まれる支援のひとつであり、今後小児在宅医療を推進するにあたって必要不可欠な支援である3)。今回、これまでの当センターでのショートステイの実績を報告し、現状でのショートステイの課題について考察したので報告する。Ⅱ.方法当センターは大阪市南部に位置し、最初1970年肢体不自由児治療施設「聖母整肢園」として開設された。2006年大阪市の委託を受けて重症心身障害児入所施設「フェニックス」を新たに開設し、同時に全体施設を「大阪発達総合療育センター」と命名した4)。現在入所施設としての機能は、医療型障害児入所施設(主として肢体不自由児)「わかば」棟:40床、医療型障害児入所施設(主として重症心身障害児)「フェニックス」棟:80床で、内ショートステイ:17床(21%)で運営している。当センターにとってもショートステイの提供は重症心身障害児の在宅支援の大きな柱である。ショートステイの登録は、事前に依頼しておいた診療情報提供書を基に医師、病棟看護師が十分程度時間をかけて病歴、医療的ケア、および患児の日常生活の様子や注意すべき点について確認している。その後引き続き医療ソーシャルワーカーより契約に関して説明し、希望があれば病棟の見学を行っている。今回2008年度から2013年度の6年間における当センターフェニックスでのショートステイの利用状況について、登録患者数、年間総利用のべ人数、年間総利用のべ日数、1回あたりの利用日数、年間利用回数、利用者の年齢、利用者の医療的ケア、利用理由、キャンセルとキャンセル待ちの人数、利用中に体調変化した人数とその理由について調査した。Ⅲ.結果1.登録患者数図1のように、ショートステイの登録患者数は年々増加し、2012年度末で578名が登録されていた。2010年に申込み多数にて登録を一時中断、2011年に一定期間以上利用がないケースに連絡し登録を抹消した経緯がありいったん減少したが、その後また増加した。2.年間総利用のべ人数と年間総利用のべ日数2008年度~2013年度のショートステイの年間総利用のべ人数と年間総利用のべ日数を図2に示す。2011年度に開始したNICUの後方支援により総利用のべ人数、総利用のべ日数ともやや減少したが、その後また増加に転じた。2013年度はノロウイルス、アデノウイルスの流行が発生したため再び減少し1日平均11人の利用であった。3.1回あたりのショートステイ利用日数2010~2012年度の3年間における1回あたりのショートステイの利用日数を図3に示す。7日以上の利用は全体の5%に過ぎず、1泊2日と2泊3日で全体の49%を占め、82%が5日間以内の短期利用であった。4.利用者の年間利用回数2012年度の総利用者数305人の年間利用回数を図4に示す。1回のみの利用者が89人で最も多く、2回が62人、3回が54人であった。44人が1年間に6回以上利用していた。5.利用者の年齢2010~2012年度の3年間の利用者の年齢分布を図5に示す。全体の10%が6歳以下、28%が12歳以下、51%が18歳以下であった。一方で30歳以上の利用者も全体の17%を占めていた。6.利用者の医療的ケア2012年度は全体の46%が超・準重症児で占められていた(図6)。2012年4月よりショートステイ特別重度支援加算として、加算Ⅰ(超・準重症児)388点/日、加算Ⅱ(運動機能が座位までで、かつ特定の医療処置<経管栄養法、褥瘡処置、ストーマ処置等>が必要)120点/日の算定が認められており、加算Ⅰ(46%)+加算Ⅱ(12%)で全体の58%を占めていた。また人工呼吸器使用児(NPPVを含む)の利用も年々増加し(図7)、2013年度は全体の17%を占めていた。7.ショートステイの利用理由2010~2012年度の3年間の総利用者におけるショートステイの利用理由を図8に示す。休養のための利用(レスパイト)が最も多く全体の52%を占めていた。次いで冠婚葬祭(8%)、お試し(5%)、兄弟の学校行事(3%)、家族のけが・病気(3%)、旅行(3%)、次子出産(1%)が続いた。その他に分類された理由は仕事、帰省、引越などがあった。8.キャンセルについて2010年~2013年度の4年間の1カ月平均のキャンセル数とキャンセル待ちを図9に示す。最近3年間は毎月10人以上のキャンセルが発生し、キャンセル待ちは毎月30人以上存在していた。キャンセルの理由は全例体調不良であった。9.ショートステイ中の体調変化について2010年~2012年度の3年間のショートステイ利用者のべ3,006人で、入所中に何らかの追加医療処置が必要となったケースは154人(5.1%)で、理由は発熱が93人(3.1%)で一番多かった。対応としては105人(3.5%)に投薬を、33人(1.1%)に点滴を行っていた。また11人(0.4%)が急性期病院へ搬送されていた。重篤な事例としては、・突然の心停止で蘇生に反応せずに死亡・胃穿孔からショック状態→蘇生後転送し緊急手術にて救命・食事の誤嚥による窒息(蘇生にて回復)・更衣介助中の大腿骨顆上骨折・けいれん重積などがあった。Ⅳ.考察2012年7月の集計によると5)、大阪府全体(大阪市・堺市など政令都市も含む)の重症心身障害児(者)数は7,916人であり、人口1,000人あたり0.89人であった。これは従来より言われている人口1,000人あたり0.3人より大幅に多く、近年、特に都市部では医療の進歩による救命率の向上と寿命の延伸によってその数が増加していることが示された。一方、その内医療型障害児入所施設(療養介護事業も含む)の入所者数は659人(8%)に過ぎなかった。また、入所者の内18歳未満の児は95名(14%)に過ぎず、18歳以上の者が564名(86%)を占めていた。すなわち、障害児入所施設にもかかわらず、入所者の80%以上が18歳以上の成人が占めている現実が示された。残りの7,257人(92%)は在宅生活をしており、その内約50%が何らかの医療的ケアが必要であった。また、驚くことに在宅児者の方が施設入所児者よりも医療的ケアの重症度が高いという事実が判明した。在宅児者914人と施設入所児者568人の比較によると5)、気管切開を施行している児者の割合は、在宅14.8% に対して施設入所6.3%であり、同じく人工呼吸器使用は在宅7.2%に対して施設入所2.6%であった。それにもかかわらず、現在このような高度な小児在宅医療を支援する人材が不足し、小児に対応できる訪問診療医・訪問看護師・訪問リハビリテーション療法士や医療的ケアに対応できる訪問ヘルパー等の育成が緊急の課題となっている。一方前述したように在宅生活を継続している家族の最大の要望は、レスパイトケアを含んだショートステイの拡充である2)。このことは、全国重症心身障害児(者)を守る会での調査でも、在宅生活継続のための大切な柱と位置付けてられている6)。当センターのショートステイは西日本で最も多い登録患者数(2014年9月現在約600名)、利用人数(年間総利用のべ人数約1,000人)で、現在も約50名が登録診察待ちの状況である。今後も登録患者数はさらに増加することが予想される。利用者の49%は3日以内の非常に短い利用であった。これは毎日入退所が頻繁に行われていることを意味している。2012年度の総利用者数は305人で、これは1年間に全登録者の約半数が利用していることになる。年間利用回数は1回のみの利用者が最も多く、約半数が年間2回以下の利用であった。この理由の一つはベッド不足であり、本当は頻繁に利用したいが申し込んでも落選することによる。もう一つは次々に登録される新規登録者が緊急利用時のことを考えて、ひとまず一度体験利用することによる。当センターのショートステイは初回利用は原則1泊2日としており、このことが全体の利用日数の短縮にも影響していると考えられた。利用者の年齢は全体の28%が12歳以下、51%が18歳以下で占められていたが、一方で30歳以上の利用者も全体の17%を占めており、重症心身障害児(者)の幅広い年齢分布がここでも窺えた。また全体の46%が超・準重症児、17%が人工呼吸器使用で、医療要求度が高い傾向を認めた。(以降はPDFを参照ください)