著者
船橋 泰博
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.4, pp.204-209, 2010 (Released:2010-10-08)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

アメリカ食品医薬局(FDA)によりがんの治療薬として承認されている14のキナーゼ阻害薬(抗体および低分子化合物)のうち,4つの薬剤が血管内皮細胞増殖因子(VEGF)シグナル経路を標的とするVEGF標的治療薬である.がん細胞により誘導された腫瘍血管の新生を阻害することで抗腫瘍効果を示す,血管新生阻害薬の概念は古く,1970年代初期には提案されていた.概念の臨床研究における証明までの道のりは長く,険しく,その概念の実現性が疑問視された時代もあったが,抗VEGF阻害抗体であるベバシズマブの臨床試験における治療効果の確認は,血管新生阻害薬によるがん治療の時代の幕を開け,VEGF標的治療薬のがん治療における役割の重要性は拡大している.また基礎研究においても血管新生研究は大きく発展しており,VEGFシグナル経路以外で血管新生を誘導するシグナル経路が数多く判明している.VEGF標的治療薬を用いたがん治療の拡大により,血管新生阻害薬に対するがん細胞の薬剤耐性化の問題が明らかとなってきており,VEGFとは異なるシグナル経路を阻害する血管新生阻害薬の開発とVEGF標的治療薬耐性がんに対する治療効果の改善が期待されている.